内容説明
死ぬ時に、ああ、私にはもっと別の人生があった筈なのに、と自分の生涯を後悔しなければならない程不幸な事があるだろうか、と今まで私は思い続け、それで死ぬのも怖れ続けていた。でもこうした後悔は随分傲慢な思いなのかもしれない。――始まりがあれば、終りがある。死とはそうしたもの。――<本文より>(講談社文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
翔亀
49
1,250pの大長編。8人姉弟の一生を語るには、まだ短いかもしれない。いつまでもこの有森家に付き合っていきたい感じだ。太宰治の娘が母方の有森家を語るというモデル小説とはいえ、8人は実在者の様に生き生きしている。戦争という時代の描かれ方や太宰治の心中事件等も興味深いが、8人が次々と病死する中でも、反発しながらも協力し・愛し合う姿に感動せざるを得ない。時代は変わってもどっしりと聳え彼らを励ます甲府の山々。作中、死者が話し出す幻視が何度も登場するが、同様に甲府に行く度にこの8人が私に語り掛けてくるに違いない。2016/07/31
takaC
33
面白かった。朝ドラ「純情きらり」では冬吾も桜子も死ななかったな、確か。2013/12/01
James Hayashi
29
重厚な書であるが読みやすい。戦前から戦後にかけての時代に生きる大家族。不幸にも感じられるが、透徹した生命力も感じる。なぜ軍需工場のない甲府に米軍は焼夷弾を落とさなければならなかったのか。戦争を生き延びても苦しい生活が続くが、生き抜く人たち。太宰治を父に持つ作家が記憶にない父の足跡に近づこうとした意気を感じた。何と言っても遠景のどしっりしたラピスラズリの富士が脳裏に焼きつく作品。2018/08/25
yumiha
26
血族という言葉が浮かぶ。昔なら戸主である勇太郎だが、食糧難の時代を生き抜くには、どうにも頼りない。むしろ照子・笛子。杏子・桜子という姉たちやいとこのキヨミが暮らしや決断を支えてくれたと思う。きちんと書き分けられた姉たちの生き抜く姿こそ、作者の書きたかったことだと思う。また、キヨミが育てた戦災孤児たちは、『山猫ドーム』へと続く。そのキヨミの「いつだっておんなじようにして自分の知恵で生き続けるだけ」や杏子の「生き続けるのは、タタカウこと。食べ物を取ってくること」が妙に心に残った。どんな時代でも女は生き続ける。2016/10/21
松本直哉
20
江田島の海軍から海を隔てて広島の原爆投下を目の当たりにした勇太郎の文章のすぐ後には、彼の祖父源一郎の、富士山の宝永噴火の被害の叙述が続く。一見関係のない戦争と噴火なのに、まるでひとつながりのように、人間の世界を根柢から揺さぶるものとして見えてくる。後半になり、勇太郎の文章に憑依するかのように、それにツッコミを入れるように、姉たちの独白が挿入され、視点は複数化される。食糧難と空襲の中助け合いいたわりあう兄弟たちにも運命は容赦ない。日本の無理やりの近代化と歩調を合わせるような一族の歴史は読後深い余韻に浸らせる2026/01/30




