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内容説明
父―皇帝―神の殺害をめぐる、原罪の物語
世界変革の夢、死刑判決、特赦、シベリア流刑とうち続く辛酸を強いられたユートピア主義者。ロシアの民に神を見つめ、世界の救済をキリストと「子」への信仰に見出す晩年。「父=皇帝=神殺し」の欲望と原罪意識との凄絶な闘いから生まれた魂の文学。その深層に迫る。
目次
第1部 若き魂の刻印(楽園追放 引き裂かれた夢想家 回心、神をはらめる民 地下室の誕生)
第2部 聖なる徴のもとに(観念という狂気 聖なるものの運命)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
42
本書は学術書ではないでしょう。批評でもなく、著者がただひたすら己の興味の赴くままに書き、その主体の揺らぎも含めて読者は読む。小説と外部の作者ドストエフスキーとが一体になった、いわばノンフィクションといった感じです。以前、数十ページ読んで挫折したことがあるように、ドストエフスキーが生の豊饒さを反転させたようなマゾヒズム的屈折の自意識過剰さを持った繊細な人物という見立てで、著者がドストエフスキーに同一化しているモチーフにはまると非常に読み応えがあります。大げさなヤツ、と全く受け付けない可能性も十分あります。2021/03/22
踊る猫
27
ドストエフスキーの半生と作品世界が、ルポルタージュと講義と批評を入り交じった形で展開されて行く。それはさながら五目寿司のようで、ヴァラエティに富んでいると言えば言えるし分析もなかなか興味深いのだけれど、ドストエフスキーを読んだことがない方にどう映るのか微妙にも思う。入りやすいかなとも思うのだけれど、分析は結構マニアックなので初心者はチンプンカンプンかもしれない。下巻を読めばまた印象は変わって来るのかもしれないが、このバラバラな構成を創意工夫の産物と見るか技法に淫していると捉えるか難しいところだ。下巻では?2018/01/31
amanon
7
予想外の面白さでほぼ一気に読了。その多くは既知であるドストエフスキーの伝記的事実も、改めて辿り直すことによって、その複雑性と狂気、スキャンダラスなエピソードの数々に今更ながらに驚かされる。個人的に圧巻だったのは有名な賭博狂いのくだり。そうやって破滅と背中合わせの状況で、名作を生み出したと考えると、小説家になんかなるもんじゃないなと痛感させられる。またあまり知られていない、ともすれば失敗作とみなされがちな作品にも光を当て、興味深い側面を解説しているのに好感が持てた。それらの作品、作者が新訳を出してほしい。2023/12/16
翡翠
6
感想は下巻にて。2021/05/06
遊た(ゆうた)
5
本書は「父殺し」をテーマにしているが、ドストエフスキーの家族関係についてのみ語っている内容ではなかった。本書におけいる「父殺し」とはおそらく精神分析でいう「象徴的な父殺し」を指しているのだろう。本書で語られる「象徴的な父」は皇帝とそれが代表するところのロシア社会そのものだと思った。ドストエフスキーが生きた時代のロシアはそうとう行き詰っていたようで、終末的な様相を呈していたようだ。そんな時代において社会の行き詰まりを打破するためには「象徴的な父殺し」の幻想が必要だったのかもしれない。2018/09/18