内容説明
「後期大江文学の臨界点」――いとうせいこう急進派による無差別テロ計画を知り、実行を阻止するためにテレビで「すべては冗談でした」と棄教を宣言した新興教団の指導者・師匠(パトロン)と案内人(ガイド)――10年後、ふたりは若い協力者とともに活動を再開する。だがその矢先、案内人が元急進派に殺され、事態は急変する。 希求する魂のドラマを描く、感動の長篇小説。
目次
序 章 犬のような顔の美しい眼
第一章 百 年
第二章 再 会
第三章 宙返り
第四章 R・S・トーマス講読
第五章 モースブルッガー委員会
第六章 案内人
第七章 聖 痕
第八章 新しい案内人が選ばれる
第九章 そのなかにすべてが書かれていながら、生きることはそれを書き続けることである本
第十章 通夜躁病は果てしなく続く(一)
第十一章 通夜躁病は果てしなく続く(二)
第十二章 新しい信者のイニシエーション
第十三章 追悼集会のハレルヤ
第十四章 なぜ、いま師匠は帰って来たか?
第十五章 積年の疲労
第十六章 臨床家
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
メタボン
34
☆☆☆☆ 師匠(パトロン)案内人(ガイド)踊り子(ダンサー)といった象徴的な呼び名を持つ登場人物。前半冗長と感じつつ読んでいたが、案内人の死から物語が動き始めた。新しいガイドとしての役割を与えられた木津は末期癌。若い愛人である育雄と、愛媛の谷間の集落に「宙返り」後のパトロンを中心とする教会を立ち上げに向かう。ところどころに大江らしいユーモアある文章を交えるが、全体的には新興宗教と人間の深淵を表出しようとする真摯な文章が続く。障害を持つ青年の澄んだピアノの音楽もBGMとして(大江光を想起させる)下巻へ突入。2022/08/31
フリウリ
11
安穏な2023年末から不穏な2024年正月に、「大江健三郎全小説13」にて読みました。「緑の木」三部作で小説は書き終えたはずの大江氏が、オウム真理教事件を受けて、四年をかけて書き下ろした作品、とのことです。失敗作と思いますが、感想は「下」の項で。52024/01/03
呼戯人
9
新新宗教の教団内部の人間力学を描く。しかし、モデルとなっているのはキリスト教系の教団のような感じ。教祖が火に包まれて、死に至るがそこは死刑判決の出た麻原と違うところ。魂のことをするところがなくなった現代においては、こうした新新宗教の需要はまだまだあるのかもしれない。魂という言葉を使うのは、現代にあっては文学者と臨床心理学者くらいのものだ。しかし、魂はある。心と体の全体の働きとして。2015/05/21
mstr_kk
8
『燃えあがる緑の木』にはイマイチ感がありましたが、初めて読んだこの『宙返り』は、凄まじく面白いです! まだ前半だけですが、大江健三郎で好きな作品ベスト3に入るかもというくらい。こんなに面白い作品をなぜ今まで読まなかったのか! 同じく宗教をモチーフにしながら、『燃えあがる緑の木』よりも巧妙な小説的仕掛けを組むことで、狙いがより明確にされています。洞察が深くて多面的。村上春樹の『1Q84』に先駆け、はるかに上をいく力量を示す作品であるように思います。下巻に期待しかない!2024/02/29
井蛙
8
急進派の伸長を恐れ、土壇場で教義を冗談のうちに解消した教祖。これって人間宣言をした天皇のことなのでは…?と思いながら読んでいると、上巻の終わり際にちょうどその指摘があって「自分、天才!w」となった。というより大江の根本的な問題意識がだんだん本当に分かるようになってきたな。新プラトン主義的〈一者〉への回帰を架橋する存在(その名が天皇であれ、師匠であれ)を、大江は「視る者」と「視覚を言葉に翻案する者」とに分離し、両者の緊張関係を示す。そして後者がもはや存在しないとき、我々にはいかなる救いの道が残されているか…2019/10/19
-
- 電子書籍
- 素顔の私に恋をして【タテヨミ】第7話 …
-
- 電子書籍
- SHOGOー彰伍ー マンガの金字塔
-
- 電子書籍
- きみのご冥福なんていのらない 3 少年…
-
- 電子書籍
- 【災害大国の未来】熱海市土石流を機に考…
-
- 電子書籍
- 暴食のベルセルク~俺だけレベルという概…