内容説明
「歴史はときに、血を欲した。このましくないが、暗殺者も、その兇手に斃れた死骸も、ともにわれわれの歴史的遺産である。そういう眼で、幕末におこった暗殺事件を見なおしてみた」(「あとがき」より)。春の雪を血で染めた大老・井伊直弼襲撃から始まった幕末狂瀾の時代を、清河八郎、吉田東洋など十二の暗殺事件で描く連作小説。
感想・レビュー
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ヴェネツィア
370
タイトル通りに幕末の動乱期を描く。ただし、ここで焦点をあてられているのは暗殺者たちである。「桜田門外の変」にはじまって「最後の攘夷志士」まで12篇。文体は昂揚感を極力抑えた筆致であり、むしろ淡々と語られる。それだけに事実の持つ重みが増すようだ。暗殺者の大半は知らない人物(多くは歴史の中に埋もれていったのだろう)なのだが、狙われる側は大老の井伊直弼をはじめ、桂小五郎など周知の人物が大半である。生き残った者たちの多くは明治の世で元勲として活躍した。意外だったのが、若き日の伊藤博文と井上馨である。2024/05/10
むーちゃん
163
二回目読了。短編12にて構成。 いろいろな司馬作品と連動(関連)しておりサラサラ読めた。信念の違いさえあれみんなが真剣に命をかけて時代を駆け抜ける様が生々しく描写されてます。 あと、生き残るってことは大事だなと。 長編ではないので隙間時間で読めます。2017/02/20
drago @関東地方旅行中。
113
歴史は時に血を欲する。暗殺者も、非業の死をとげた者も、共に歴史的遺産といえるだろう…。 ◆幕末における12の暗殺の物語。一つ一つがとても重い短編。 ◆司馬遼太郎は暗殺が嫌いと言っているが、これは本当に面白いし勉強になる。司馬の知識と洞察力の深さに、改めて感服。 ◆司馬は生き残って明治政府で活躍した者より、倒幕のために力を尽くして殉死した者のなかに優秀な人物が多いと評価。分かるような気がする。 ◆幕末の端緒となった第1話「桜田門外の変」と、攘夷の信念を貫く最終話「最後の攘夷志士」がマイベスト。 ☆☆☆☆☆2021/09/25
初美マリン
110
勤皇の志士たちの一流どころは、みんな死んだ、といいきった、しかしいとも簡単に暗殺が行われていた、そんな時代だったのか、いやテロを思えば、今も同じかもしれない2019/04/16
R
105
タイトルの時代を扱った短編集なのだが、テロルを主題に据えて、暗殺者が主人公。著者的に暗殺は否定的であるとしているからか、人物評などはだいぶ辛口に書かれていて、伊藤博文、井上馨あたりの扱いが酷くて笑ってしまった。現在、少なからずこの影響で二人の評判が悪いんじゃないかと思ってしまう。桜田門外の変のみ、時代を変えた暗殺であったとしつつも、そのほかの様々な殺しは思想というではなく、ただの殺人であったという描き方にも見えて考えさせられた。ちょこちょこ女性といい感じになりそうで、消滅するのがもやもやした。2023/12/25