内容説明
友人たちとの夜通しのパーティ。目をさました午後に、清瀬は以前の恋人の喬から彼がHIVポジティブであることを打ち明けられた。生と死へのたぎる想いを抱えた清瀬を、おかまの日出雄が誘う。「旅行に行こうよ、喬を連れて」。行先は、エジプト。とてつもない絶望から始まる旅で、友情がたどった運命を描く胸を打つ長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちはや@灯れ松明の火
40
にわかに色濃くなった死の影が旅へと誘う。今を忘れるためか、先を見つめるためか。けれど些末な感傷は生命を運ぶ大河に呑み込まれていく。移ろう光と影が表すひとつの意味、去りゆく太陽を惜しんだ古の信仰、刻一刻と変化する自然を見落としてしまわぬように。神がばらまいた花咲き乱れるオアシス、愛の女神がほほえむ真珠の如き神殿、空の棺に残された強い思いと悲しみが見せる幻。遠い昔から語り継がれてきた神話、大河を隔てて隣あう生と死、ナイルと太陽はめぐり続けて永遠を描く。砂粒よりもかすかな、けれど確かな希望を感じた旅の終わり。 2018/08/17
みう
32
〈なりゆき〉というものの偉大さを信じるしかないような景色だ。日が沈み日が昇る…〈生命〉の愛おしさを感じる旅物語。旅先でできた友人と夜中の船内で初恋の話をする場面がよかった。/死にゆく人たちに最も必要なことは、いつの間にか時間を忘れてしまう瞬間を持つこと/彼は私の青春の花で、光で、いちばん激しくてどうにもならなかった切ない思い出だ。あの頃の自分を思い出すだけで心に生き生きとした何かがよみがえってくる。【世界の旅シリーズ第②弾】2007/04/10
ヴェネツィア
21
死者が生者を凌駕する、時間的にも空間的にも壮大なエジプトを舞台に繰り広げられる物語。主人公の「私」をはじめとして、登場人物たちとその相互の関係やあり方にはリアリティがあるのだが、彼らが行く先々でオベロイなどの高級ホテルを泊り歩いたり、アルマーニやプラダを買いあさるという経済感覚にはリアリティがない。自分の旅行をそのままに投影し過ぎたのだろう。表題がSLY(ずるい)というのは、わかるようなわからないような。2012/05/18
いっちゃん
11
エジプトでなくてもいいやん、仕事とかいって旅行して!って、あまりに羨ましくて腹立ってしまった。またまた同じ頃、もう19年くらい前にエジプトに行った。すごくわかる、この感じって、何回も思った。何もなくても、旅行中っていろんなこと考えるのに、身近な人の死なんて、受けとめきれないやろうな。テーマが面白かったし、もっと先まで書いてほしかったな。余談だけど、ガイドのアクラムさん、私がガイドしてもらった人と同じな気がする…2014/08/17
yuna☆
8
「増やしてゆくこと、やみくもに、味わうこともせず、そっと降り積もらせ続けること。歯を食いしばるような運命の正確さと理不尽さに、人間がわずかでも対抗できるささやかな魔法の味。」2019/08/09