内容説明
真夏の広島の街が、一瞬の閃光で死の街となる。累々たる屍の山。生きのび、河原で野宿する虚脱した人々。僕死にそうです、と言ってそのまま息絶える少年。原爆投下の瞬間と、街と村の直後の惨状を克明に記録して1度は占領軍により発禁となった幻の長篇「屍の街」。後遺症におびえ、狂気と妄想を孕んだ入院記「半人間」。被爆体験を記した大田洋子の“遺書”というべき代表作2篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こばまり
49
人間の眼と作家の眼、ふたつの眼で見るぞと自らを鼓舞して記憶したヒロシマ。そして7年後、このままでは原民喜のようになってしまうとの不安から希望した入院生活。生涯を原爆に囚われた作家の悲哀を感じずにはいられない。2017年盛夏、蝉の声を聞きながら読了。2017/08/07
メタボン
24
☆☆☆☆☆ 忘れてはならないヒロシマの凄惨な記録。悲惨な事実を作家としてどう書くか、そこには伝えたいというすさまじい執念が感じられる。直視できない死にゆく人々の描写、そして耐えられないほどの苦痛があるはずなのに皆無表情で死を待つという恐ろしい世界。読むことでしか想像出来ないが、この作品は残し伝えなければならないと思う。ところどころで言及される広島に関する文章が逆にとても美しく感じた。悲惨な体験と作家としての表現の葛藤に精神を病む「半人間」も非常に印象深い。2020/09/24
belier
4
広島の原爆投下を直に経験した流行作家が、使命感を持って書いた記録が「屍の街」。作者は焼夷弾による空襲なら想定していたが、青い閃光が一発放たれただけで、阿鼻叫喚の惨状が引き起こされて戸惑っている。それでも作家の目で状況を見ようとし、ペンも紙も不足するなかで自らの死に怯えながらも克明に書き残した。ところで、近年、これまでありえないだろうと思っていたことが、実際に起こってしまっている。その感覚で読むためか、作者と一緒になって困惑し、呆然とした。そう感じるのは、筆力のおかげでもあるし、今の時代に読むからでもある。2022/08/04
seichan
4
さまざまな人が惨状を語っているヒロシマの原爆だけど、表題作は被爆した作者が身の回りの人がバタバタ死んでるさなか、死の恐怖に震えながら書いたという半ばリアルタイムなレポート。書かねばという悲壮な感覚が伝わってくる。だけども「半人間」の、世間が日常をとりもどしてく中で、取り残され囚われ窒息していく魂の苦しい在り様が、よりリアルだったし、小説としても読ませるものがあった。2019/06/01
ピラックマ
3
「銅色に焦げた皮膚に白い薬や、油や、それから焼栗をならべたような火ぶくれがつぶれて、癩病のような恰好になっていた」原爆の惨劇の断片を切り取っていく迫真のドキュメンタリーである「屍の街」。今で言うPTSDに悩まされる過程を描く「半人間」。前者は今となっては様々な情報を得ているだけにさほど衝撃は受けないが、後者の方が小説としての出来はすぐれているように思う。戻っている平和な日常との歪、精神の壊れっぷりがなんとも恐ろしい。2013/09/16