内容説明
哲平と美沙緒の夫婦にとって、この引っ越しは新たな門出となるはずであった。
築後わずか8カ月のマンション。
陽当りの良い15畳のリビング。
独立した台所。
そして、娘・玉緒の幼稚園まで歩いて10分、哲平の勤務地まで乗り換えなしというのが、何よりの魅力だった。
平和で健全な生活を望む家族に何の不足があるというのだろう。
たとえ、目前に広大な墓地がひろがり、背後を寺と火葬場に囲まれていようと―。
凶変は引っ越しの翌朝に始まった。
文鳥が死んだ。
TVには虚影が映る。
やがてマンションは、まるで生きものの如く家族を常闇の奈落へと誘う。
極限状況の中に顕現してゆく人間の生理と変貌してゆく心理とを見事に描く、書下しモダン・ホラー小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
728
小池真理子といえば、都会を舞台に大人の恋を颯爽と描く作家というのが私の抱いていたイメージだった。ところが、ここにはもう一人の小池真理子がいる。すなわち、彼女はこの上なく怖いホラー小説作家としての顔をあわせ持っていた。これまでにも、そうした小説も読んできた。しかし、本書はその怖さにおいて他を圧するものがある。微かな気配と予兆に始まり、じわじわと主人公一家を、そして読者を心理的に追い込んでゆく手法。その速度たるや、まさに絶妙である。想像力こそが恐怖の源泉に他ならないが、小説世界はそれを喚起して止むことがない。2019/07/21
青乃108号
285
小池真理子のホラーは、随分前に「アナベル・リイ」を読んで以来。あれはどこか上品な雰囲気の怪談だったが、これはまたいかにも分かりやすいホラーで、さすがに30年前の作品だしそんなに怖くはないけど墓場を見下ろすマンションの禍々しい感じは良く出ている。終盤、救いの神と思われた引っ越し屋始め電話屋エアコン屋など業者が軒並みじゅうじゅうと溶解するのはそんなアホな、だけど、ラストの主人公一家が墓場マンションに閉じ込められ追い詰められる様はじっくりジワジワとハラハラさせられる。彼等は果たして無事に脱出出来るのか。2023/10/18
夜間飛行
226
話は白文鳥の死から始まる。かつて不倫相手だった今の夫と(前妻の自殺後)結ばれた美沙緒。意識のどこかで死と隣り合っているこの夫婦の日常からは、バブル期に多くの人が抱いた焦りや掴み所のない不安が伝わってくる。夫のマイホームへの拘りと、妻の育児や仕事に向けた願望…にも拘わらず、墓地に面したマンションでは転出が相次ぐ。地下倉庫で頻発する怪現象は、頓挫した地下商店街計画とどう関わるのか。街を覆う虚ろな空気は緊急事態宣言の頃にも似るが、読むうちにむしろこれはJGバラードの〝終わっている世界〟に近いと思われた。19882020/08/02
ゆこ
160
読友さんのオススメ本。……やや苦手としているホラー……(笑)小池真理子さんがホラーを描くというのを初めて知った(不倫とかのイメージ)。ベタなホラー作品ではあるが、とにかく怖い。エレベーターのくだりを読んでいる時は特に背筋がゾゾゾっと。マンション住まいでなくてよかった。しかも、人間のえげつないところまで描かれていて、さすがに上手い!!と一人で納得。怖くても先が気になる本だった。何ともいえない理不尽な感じがたまらなく好き(笑)そしてラストは放り投げ。後はご想像にお任せします、みたいな。そのほうがよっぽど怖い。2014/04/08
ショースケ
152
少々墓地が見えたって、条件のいい格安物件なら誰だって心揺さぶられるだろう。しかしそこは不気味なマンションだった。特に地下室がおかしい。エレベーターが開かない。次々と襲いくる恐怖。ドキドキしながらページをめくった。たまにB級ホラー映画化のような場面があるのはざんねんだったが、マンションでただひと家族となってしまい、出るに出られない状況の中襲いくる得体の知れない何か…最後の最後まで恐怖で終わった。なかなか読みごたえはある物語だった。2021/02/25
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