内容説明
父をこよなく愛した幼、少年の日々。敗戦により海軍軍人であった父の失職の帰還。失意と家庭の不幸を耐えた父のストイシズム。人間の魂の高貴を平明、粉飾なき文体で描く秀作群。惜しまれて急逝した不朽の文学者魂・阿部昭の世界。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
jjm
10
初阿部昭。私小説。'93センター試験出題(司令の休暇)。元海軍軍人(司令)である<僕>の父の敗戦から末期癌で入院するまで一人では何一つできなかった期間を長すぎた「休暇」と表現し、その父の一生涯を振り返る形式で物語は進む。酒で身を持ち崩した要因を<僕>は知的障害を持つ<大きい兄>にあったのではないかと分析する。<僕>の母からは「(自分は夫の)奴隷のような一生だった」と言われる始末。色々と家族の在り方を考えさせられる作品だった。作品とは無関係なのと当たり前だが、共通テストは有名作家のマイナー作品が出題される。2021/09/06
ふしぎ
2
ずっと読みたかった「司令の休暇」、やはり戦争から戻った父親が、戦後の生活の中で病死するだけの話でしたが、真昼間の倦怠感のような淡さと落ち着きがあった。 2018/02/21
kamiya
1
非常に面白かった。父と子をテーマにした5作品。私小説ということになるのかな?表題作の『司令の休暇』は「大きい兄さん」のシーンがすごく効果的で印象的だった。父親の入院はたった2週間くらいのことなのに、沢山の回想が入っていることで、人生を総括する感じになっている。淡々と進む感じもすごく良い。2021/01/14
Satie
1
河合塾のテキストにあって、気になって予備校が終わった後にマルゼンに走って買った。 高3の夏に買ってから、ずっと読まなかった作品、大学卒業後、就職して2ヶ月の今日やっと読み終わった。 1970年くらい、当時の鵠沼、大船、新橋の風景が目に浮かぶみたい。最近祖父が亡くなって、主人公の父と重ねて読んでいました。世代としては主人公くらいだけど。2019/06/03
耳クソ
1
どれも素晴らしいが、特に「幼年詩篇」は完璧。これは自分の一生の中の時間を細かく、また真摯に拾い集めている。どんな境遇・年代であれ、あの消えることのない『戦争』を考えるとき、本当に必要なのはこういった行為なのかもしれない。2018/09/16