ちくま文庫<br> 骨董屋(下)

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ちくま文庫
骨董屋(下)

  • ISBN:9784480023421

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内容説明

2人を追うのは高利貸クウィルプだけではなかった。海外で金持ちとなって帰国したトレント老人の弟が、さすらう2人を救出しようと行方を探していたのだ。しかし居所を突き止めたときにはすでに遅く、苦難の旅路の果て、ネルは眠るように死んでしまっていたのだ。骨董に囲まれて眠るネルの姿を描いて始まる物語は古めかしい教会の一室で死の床に眠るネルの姿で終わり、あたかも円環を描くかのごとく小説は閉じられる。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

NAO

52
ロンドンを出たネルと老人は、様々な人々に会い、ロンドン近郊の貧しさを目の当たりにしながらあてどない旅を続ける。二人の旅が『天路歴程』を下敷きとしていることは物語の中でネルの口からも語られており、ネルは貧しく苦しい旅を魂の遍歴の旅に擬して心の平安を得ようとしていたが、清らかで尊い心のネルとは程遠い俗世界の塵にまみれた老人は金の束縛から逃れられず、自分の手で可愛い孫娘の首を絞めていることにも全く気づいていない。彼自身が資本主義の犠牲者とはいえ、この老人のような人間が、一番始末に悪いのだろうなと思う。2016/02/24

田中

26
各地を遍歴し道中で遭遇した様々な出来事や人物たちを綴るディケンズの得意な小説構成である。少女ネルと老人の苦難にみちた放浪の旅で出会う善良な人々との交流がよかった。溶解炉の貧しい労働者がネルに寝床をあたえ、なけなしのお金を手わたす時は、胸がふるえた。クィルプの執念深さが憎々しい。その手先で悪徳弁護士ブラース氏の追従ぶりが滑稽だ。奇妙な紳士のスウィヴェラー氏を看護する小女召使いは、キットのえん罪をはらす。善人と悪人が明瞭で、まるで実在のような色彩豊かな登場人物たちに瞠目するのがディケンズを読む愉楽だろう。 2022/09/29

ゆーかり

18
ディケンズ4作目の長編小説。短編の予定だったものを長編にしたため即興的に書き綴っていったにも関わらず、当時英米で熱狂的な人気を博した。日本でもかつてこの小説を原作とした「さすらいの少女ネル」というアニメが放映されていたらしい。遍歴の中で出会う人々が印象的。ネルは可哀想なのだけど、それよりも保護者と被保護者の倒錯した関係、それも父娘でなく祖父、不幸の元凶に思えるこの老人に憤りを感じてしまう。登場人物の中ではスウィヴェラー君が良い。チェスタトン評する通り、彼と「侯爵夫人」のシーンが魅力的。2016/03/13

きりぱい

9
孫娘の将来を心配し、ひと儲けを夢見たばかりに賭博で財産を失い、逃げるように放浪する骨董屋の老人と孫娘のネル。老人がまた賭博を始めるところなどは本当に忍びない。発表当時、美しく善良なネルに熱狂し、ネルの登場場面だけを抜粋して愛読した作家もいたとか。逆にネルが出ない場面も、悪役は嫌らしさたっぷり、好意的な人はどこまでも親切と、ユーモアある人間味を存分に味わえる。なかでもスウィヴェラーは男を上げる。知っていたとはいえ、うるると来ずにはいられない結末。まっさらでラストを味わいたい人は、上巻の解説は下巻の後が賢明。2012/03/05

壱萬弐仟縁

7
「貧乏人をあざけっているいちばん高い尖塔より、もっと誠実な心で空を指すことだろう」(8ページ)。ラスキンの『建築の七灯』の尖塔アーチのようなイメージを思い出した。「大きな工業都市の騒音、よごれと、痩せ細ったみじめさと飢えた物悲しさの臭気を放って、彼らを四方八方とりかこみ、希望を閉めだし、逃亡を不可能にしているような感じだった」(103ページ)。やはり、物質文明の危機による環境問題について書いてある。2013/02/13

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