内容説明
偶然によって出会ったいくつかの情熱が、一つの目的に向かって疾走する。東洋タイトル戦の実現に奔走する“私”。だが、生活のためにはトレーニングを犠牲にしなければならないボクサー、対立する老トレーナー。絶望と亀裂を乗り越えて、最後に彼らの見たものは……。一つの夢をともにした男たちの情熱と苦闘のドラマを“私ノンフィクション”の手法で描く第一回新田次郎文学賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
486
恥ずかしながら上巻レビューでみなさんに教えていただくまで、これがほぼ実話だと知らずに読んでいた。上下巻とも中弛み感を感じていたが、筆者は事実をできるだけはしょらずに記録として残そう、と決めていたのだろう。ボクシングにかける男たちの熱量、結びつき、そして挫折、壮大なドラマを読み切った思いだ。2024/09/03
ふう
74
同じ夢を見ているはずの、しかもたくさんの場数を踏んできたはずの男たちに亀裂が生じ始めたとき、当然なことだが、プロスポーツにはスポーツ以外のものもいろいろと絡まっているのだと、改めてその厳しさを感じました。それでも、自分の納得のできる「いつか」を求めて挑み続け、一瞬に倒れて…。生きていくということは、勝者になるよりも敗者になることの方が多いのだけど、その寂しさを受け入れてまた歩き出すのは勇気のいることです。 「ハッピーエンド、かな。」 「そうだと…いいけど。」 そうだといいけど、答えはわかりません。2016/02/11
姉勤
50
事実は小説より奇なり。と言うが、小説ならばカタルシスやサクセス・ストーリーに設える最高の材料が揃っているこの舞台を、こう料理する事は無いだろう。万億とある平凡な事実の中から砂金を攫う様に見つけた奇貨を、勿体無いと物語りのよすがとしてしまう。その拾われる事の無い、平凡な結末にもこれほどのドラマがあり、積み重ねる生きた時間がある。グローブを壁に掛けて聞くテンカウントは、次の人生の始まりでもある。2015/04/09
踊る猫
37
あたりまえのことを書くが、このノンフィクションにおいてどの場面にも常に存在しているのが沢木耕太郎本人である。語り手として、内藤の友人として、あるいはプロモーターとして積極的に事態にかかわっていく。しかし、できあがったこの『一瞬の夏』を読むと沢木の存在感が実に透明というか感情をほとんど表に出さずに冷静に(あたかも、自分の匂いをかんぜんに消すようにして)振る舞っていることに驚かされる。存在していながら存在感を匂わせないストイシズムを貫徹した結果、ここまで贅肉を削ぎ落としたノンフィクションを作り出したことが凄い2025/12/20
よこしま
35
カシアスになれなかった男。◆下巻は重かったです。まさか沢木さん自身がプロモーター役を買って出るとは思いもせず。日本を代表する名トレーナー・エディ・タウンゼントと内藤との3人が上巻ではあれほど結束が強かったのに、呆気なく崩れるとは。2人が感じ取れた、内藤の「何かに責任転嫁をする」という一面が最後の最後に出てしまった様な。◆カシアスという名はモハメド・アリの改宗する前の名。彼のようにブランク明けや苦しい展開を打開できず。◆現在、息子である内藤律樹選手が、父子揃って日本王者になりました。カシアスを超えてほしい。2015/08/11
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