内容説明
中年の化粧品セールスマン伊木一郎が、偶然知り合った18歳の津上明子に求めるもの、明子に頼まれて誘惑する姉京子に求めるもの、そして妻の江美子に求めるものも、心ではなくただ女体であった。疚しさとも歪んだ心持ちとも無関係な、常識を破るショッキングな肉体の触れ合いの中に、真の性的充足を探り、性の根源にメスを入れた野心的長編。姉妹編を成す『樹々は緑か』を併録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
374
タイトルはパウル・クレーの絵から。小説中にも何ヵ所かクレーに言及するところがあるが、吉行の思考がクレーのそれに寄り添い、作家の内部にある共感が再確認されるのであろう。小説を書きつつある作家と、小説内の主人公の伊木は客観と主観とが交錯したところにいる。37歳の伊木にはそれなりの過去もあるが、未来はどうやら閉ざされている。したがって彼は過去を引きずりつつ、現在時を生きる。そんな彼にとっての現在とは"性"に他ならない。それのみが不確かであり、故に生を確かめることができるからである。2020/12/16
匠
134
読みながらその愛情も充実感も感じられない性描写と主人公の孤独感と渇きに、『砂の上の植物群』とはなんて秀逸なタイトルだろうと思った。女性達との秘め事には官能よりむしろ冷めた気持ちを強く感じ、亡くなった父親の年齢を超えてしまった主人公の、父への攻撃的な複雑な想いのほうに少しだけ理解できるものがある。ちなみに本文中に登場する「塔」とは、まだ当時完成して間もない頃の東京タワーだろうし、おそらくエレベーターのことを指すであろう「昇降機」といった呼び方が昭和40年代前半の文学といった香りがして良かった。2014/04/05
まふ
114
永らく本棚に眠っていた本書を初めて読む。今日の数多い性志向小説の中でも際立つキレと迫力を持っている。内容的には日常生活を跳び越えた世界が描かれるが、これこそいい意味にも悪い意味にも「文学的世界」なのだろう。「第四の新人」と言われていても、安岡章太郎の腑抜けのような私小説世界に比べれば遥かにメリハリの効いた作品であると言える。ならば、この世界が好きか、と問われれば、それは全く別物である。2024/09/30
新地学@児童書病発動中
110
吉行淳之介の代表作の一つ。化粧品のセールスマン伊木一郎は18歳の津上明子とふとしたきっかけで身体を重ねてから、倒錯した性愛の世界にのめりこんでいく。際どいことが描かれているが扇情的ではなく、吉行氏独特の繊細で詩的な文章に引き込まれる。男性と女性の間には、決して埋めることができない裂け目が広がっていることが表現されており、現代人の孤独の深さに読み手は寂寞とした想いを抱いてしまう。父の影響から逃れようともがく主人公の姿も印象的だった。2014/07/13
たかこ
54
『本の話はどこまでも』の中で青山美智子さんが子どもの時に読んだ⁉︎という事で、驚いて気になり過ぎて、1964年版を図書館の書庫から探して読んだ。現代の価値観で判断してしまうとあり得ない…と思ってしまうけれど(特に痴漢のところ)、物語の本質は、亡き父親の圧力なのではないかと思った。若くして亡くなった父親の生き方、妻への疑念、真面目に生きてきたように見えて、そうじゃないよね。誰の気持ちにも感情移入できず、上の方から描写を眺めている、浮遊霊的な立ち位置で読み切った。2026/05/21
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