感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヘラジカ
40
上っ面だけを撫でるなら、ある程度は構成が複雑な普遍的な「家族小説」として読むことが出来るだろう。しかし、素人目にも、この作品で達成されている、若しくは為されようとしている文学的な実験は、恐ろしく途方もないものだと理解できる。この作品の独創性を的確に、そして端的に表現するほどのレベルに達していないのがもどかしい。世界文学を追いかける読書好きには「一読あれ」としか言えない。緻密にして高度な文体に舌を巻く一方で、読んでいて原始的な荒々しさを覚えたのは一種のオートフィクションだったからかと納得した。2025/07/27
19番ホール
2
トランプ劇場で世界が振り回されているいま、読むべきアメリカ文学だった。量と密度が飽和し、加速度的にあふれかえる"ことば"をみつめ、そのあとに残る何かを拾いあげる物語。パンドラの箱には希望が残ったが、今作では果たして。90年代後半を舞台に、主人公アダムと両親らの1人称がシャッフルされていく。ミッチェルやフォークナーをかなり意識させる道具立てながら、文体が詩的で、かつ描写を淡々と積んでいくので読みやすい。同時に、父親編ではヒルビリーエレジー的なテーマも重なって、すごく現代のアメリカ文学らしさを感じる。2025/08/19