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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
118
27年ぶり、鮮やかな装丁で復刊された多田尋子の『体温』。再読は、難解な言葉を使わない穏やかな著者の文章をじっくり味わった。表題作は「結婚」について考えさせられた。妻(夫)の結婚後の人生は、夫(妻)で決まる。いわゆる夫婦の人生は、伴侶しだいではなかろうか。主人公率子の結婚観—父親の勧めた縁談だが、夫は嫌いではないので食事の支度をする、下着を洗う、一緒の蒲団で寝る夜もある…それが妻の任務だから…と。男としては侘しいし、共感しがたいところだが。考えてみると夫の性格、態度が率子をそうさせた、と言えないだろうか。2019/10/19
buchipanda3
116
作品集。気負いのない自然体な文章で紡がれた小説はとても好みなものだった。読むうちに気持ちはゆったりと晴れやかなものに。主人公はみなアラフォーの女性たち。家族との別れといった過去を抱えた中で、ふと立ち止まって今の自分と向き合う彼女ら。前はそんな余裕さえなかった。人生にはそんな時間が訪れるのだと思う。古傷のような後悔や将来への朧げな不安。でも目の前のことを諦めたりする必要はないのだ。良いことも嫌なことも全てが今の自分となっている。解き放たれたかのようにふわっとしたものになった彼女たちの様が無邪気に感じられた。2021/07/09
じいじ
112
燃えるような官能的な恋愛小説もいいですが、静謐でじんわり胸に沁みるような恋愛小説も味わいがあって…と思う此の頃です。たまたま読む機会に恵まれた多田尋子の小説がどんぴしゃりです。三中編を収載して復刊された今作の【単身者】を紹介したい。二人暮らしの母の死で、介護から解放された40歳女の恋の芽生えを紡いだ物語です。やっと見つけた勤め先・古道具屋主人への淡い、じれったい女の心情が丁寧に描かれた作品です。断筆された作家で、残念ながら新作は読むことができませんが、残された作品を静かに追いかけたいと思います。(再読)2019/11/21
ベイマックス
85
3つの短編集。40歳前後の親子間や夫婦間、恋愛、生き方、年の取り方への葛藤、などが静かな文体で表現されていた。ただ、冷めているというわけではないのだけれど、苦悩や情に熱を、人間らしい熱さを感じなかったのは少し残念。2022/05/30
❁かな❁
79
歴代最多6度、芥川賞候補にあがった多田尋子さん。ままならない大人の恋愛小説集。とても素敵。若くして夫に先立たれた妻の葛藤を描く「体温」。家族との血縁がないことを知り辛い運命を背負ってしまう女性の恋心を描く「秘密」。母の介護をし恋愛してこなかった女性の想いを描く「単身者たち」。3編とも40代前後の女性が主人公。自分の気持ちに戸惑い蓋をしようとする。慎ましやかに生きていく女性。どの女性も欲がなく憂いを帯びていて静かな色気を感じる。彼女たちの背中を押したくなる。温もりのある美しい文章。甘く切ない大人の恋愛小説。2022/04/13