内容説明
ドイツ語圏演劇翻訳シリーズ第4巻。ヒトラーの世界をギャングの世界に移し替え、独裁者としての地位を確立していく過程を描く。
著者等紹介
ブレヒト,ベルトルト[ブレヒト,ベルトルト] [Brecht,Bertolt]
1898‐1956。ドイツの劇作家、詩人、演出家。アウクスブルク出身。情緒や娯楽性に偏重し、現実から目を背ける従来の「美食的」演劇に反発し、新しい時代の演劇形式として、物ごとを理性的・批判的に見つめる「叙事詩的演劇」を提唱した。アウクスブルクで裕福な製紙工場主の息子として生まれる。ミュンヘン大学哲学部に入学後、処女戯曲『バール』(1918)を執筆。ミュンヘンで初演された『夜打つ太鼓』(1919)が成功をおさめ、クライスト賞を受賞
市川明[イチカワアキラ]
大阪大学名誉教授。1948年大阪府豊中市生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学)外国語学研究科修士課程修了。1988年大阪外国語大学外国語学部助教授。1996年同大学教授。2007‐2013年大阪大学文学研究科教授。専門はドイツ文学・演劇。ブレヒト、ハイナー・ミュラーを中心にドイツ現代演劇を研究。多くのドイツ演劇を翻訳し、関西で上演し続けている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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nightowl
3
野菜市場の話が街の支配にまで及ぶ。アル・カポネについて書いているように思わせつつ、実はヒトラーがのし上がってゆく様子の物語でもある。ブレヒト作品の喋りは翻訳によってどこか切れ味が鈍く苦手という印象があった。その印象が正しいことを解説により知る。シェイクスピア風の語り口(と切れ味鋭い翻訳)を用いながら、恐ろしき世界情勢が蔓延らないよう祈りのこもった名作。「ジュリアス・シーザー」「リチャード三世」が好きな方は必読。2020/01/12
allisround
0
故郷を離れたブレヒトが『叙情詩には向かない時代』で詠った、ナチスへ向けられた敵愾心のアレゴリーを風刺物語に落とし込んだ一作。 ヒトラーに重ねられるウイが老俳優に演説での所作を教わる場面を代表に、「演劇的政治」を描いている。しかし単に歴史をなぞるだけでなく、ブレヒトの演劇理論である「異化効果」はナチスドイツをシカゴのギャングに移し替え、ブランクヴヴァースで語らせることで観客の安易な当てはめをあえて妨げる。次なるウイが這い出す母胎は失われていないと締めることで普遍性を主張する「政治的演劇」たり得るのだ。2017/07/14