内容説明
“迷走”を位置づける。戦後70年の日本現代文学の流れのなかで、村上春樹の小説はどこに位置するか。国際賞スピーチ「壁と卵」「反核スピーチ」批判を合わせた作家論+作品論。
目次
第1章 「転換」へ―果してそれは実現したか?
第2章 「コミットメント」の行方―「迷走」する村上春樹
第3章 『1Q84』批判―村上春樹はどこへ行く
第4章 「反核スピーチ」批判―私たち日本人は、確かに核に対して「ノー」と叫んできたが…
第5章 時代との接点は、どこにあるのか?―『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』をめぐって
第6章 昔の名前で出ています―『女のいない男たち』批判
第7章 文学表現における「コミットメント」とは?―村上春樹『1Q84』と莫言『蛙鳴』との違い
著者等紹介
黒古一夫[クロコカズオ]
1945年、群馬県に生まれる。群馬大学教育学部卒業。法政大学大学院で、小田切秀雄に師事。1979年、修士論文を書き直した『北村透谷論』(冬樹社)を刊行、批評家の仕事を始める。文芸評論家、筑波大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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服部
10
作品に対して面白い指摘もあったが、村上春樹に対して発言に責任を持てとか、日本を代表する作家としてもっと日本社会にコミットメントした作品を書くべきだとか、そういうのがなんとなくサムいと感じてしまった。村上春樹を批判する本だから仕方ないのだが…2021/11/23
hasegawa noboru
4
売れるんだからいいんだろうと言わんばかりのあくどい商戦にのっかた春樹現象にはいい加減ウンザリしていた。それにしても流れに棹さすばっかりの批評家の称賛一色ぶりにも、あきれた。『1Q84』1~3出版の時や毎年恒例になったノーベル賞候補騒ぎの中、孤塁を守るという感はあるが、村上春樹批判内容はまともだ。但し方々に書かれたものを集めたとはいえ、叙述に、繰り返しが多く、くどい。客観をよそおいながらの旧左翼ふう(師だとおっしゃる小田切英雄風)の傍観者的、高見に立ちながら的、図式化大好き概念批評が気になる。2015/12/27
田中峰和
3
村上は阪神淡路大震災とオウムサリン事件を契機に作品をそれまでのデタッチメント(社会的無関心)からコミットメント(社会と関わりを持つこと)への転換を宣言。この時期村上はノーベル文学賞を視野に入れており、そのための戦略だったのだろう。その後エルサレム賞受賞スピーチでの「壁と卵」、カタルーニャ国際賞の記念講演での「反核スピーチ」のあざとさも賞狙いと指摘される。実際、作品に社会との関わりなど全く導入されず、7年ぶりに発表した「1Q84 」も200万部売れたが、ノーベル賞には程遠いでき。世間が買被り過ぎと批判する。2015/08/08