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内容説明
子供を亡くし夫にも去られた女と、家族もなく役立たずという評判の男が、身を寄せ合うようにして人目を忍ぶ関係を続ける。子供のいない二人にとって生きた証とも言うべきこの秘密は、消え去るのではなく、時の果てるまで神のもとに留まる…。交錯する生と死、忘却と永遠、苦しみと救い、そして真実の愛、“天の記録保管所”に納められるべき珠玉の短篇十篇。
著者等紹介
シンガー,アイザック・バシェヴィス[シンガー,アイザックバシェヴィス][Singer,Isaac Bashevis]
1904年、ポーランドのワルシャワ郊外で生まれる。25年から、イディッシュによる短篇小説を発表しはじめる。35年に、兄で作家のイスラエル・ジョシュア・シンガーをたよってアメリカへ渡る。その後もイディッシュで作品を書き続け、78年にはノーベル文学賞を受賞した。91年にアメリカで亡くなった
大崎ふみ子[オオサキフミコ]
1953年生まれ。明治大学大学院文学研究科博士後期課程退学。鶴見大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
マリリン
36
表題作で惹き込まれた。通底する生は頑なで質素で苦しく哀しい。だけと厳粛なユダヤの魂が静かに宿る短編集。...宇宙のどこかに、人間のあらゆる苦しみや自己犠牲の行為が保存されている記録保管所があるにちがいない...とのシンガーの言葉を受け、文字だけではなく“音”でも残して欲しいと思った。思わずシンガー自身の物語では思った「アメリカから来た息子」や「祖父と孫」は時代の流れの中に佇む“ユダヤ”が愛おしい。言葉の力は声の力でもあるのか。耳にしたことがないイディッシュ語を聴いてみたくなった。2024/01/12
ぺったらぺたら子
17
人間の業の深さとその肯定感。短編も最高。猥雑でざわざわと騒がしい俗な部分と張り詰めた聖の部分とが混じりながら、深い味わいを醸す独特の世界。どれも宗教的な倫理観を苦しい程に持ちながらも、倫理に回収され得ないような人間の欲の矛盾を描く。 国籍や人種や宗教を越えた、人間としか言いようのない普遍的な域、それを敢えてユダヤ教ローカルに埋没する事によって浮かび上がらせる。本書は著者の様々な作風に跨ったベスト的な内容。中でも表題作が強烈で、私の好きな黒人ブルースの邪悪な香りにも似た中から、生きる哀しみと聖性が溢れ出す。2019/09/07
taku
14
今年最後の読了本。良い出会いとなった。ユダヤ社会の生活や文化から、ユダヤ性というものが窺える。実生活におけるユダヤ教の尊重など、ユダヤが濃くても受け入れに困らない。書き表されているのは、理屈で変えられない人間の深い部分だから。それは美しくもあれば歯がゆくもなるけど、どの短編も読み終わったとき静かな感慨を覚える。2023/12/30
彩菜
13
短編集。宇宙の何処かに神の図書館があり、人の苦しみや自己犠牲の行為が保存されているのだとシンガーは語る。この物語達はその図書館の為に書かれたのかもしれないな。中でも美しいのは表題作。ある女のもとに一人の男が悪魔を騙り忍んでくる。その悪魔は邪悪なだけではなかったから女は男を愛し、男が病に倒れた時には神に祈る、生きさせて下さいと。…ユダヤ人に生まれホロコーストを経たシンガーはその祈りが届かぬ事を知るのだろう。叶えようとしても叶わぬものへの絶望的な愛がそこには在り、だから苦しみはこんなにも深い。恐らく愛も。2019/11/24
刳森伸一
6
再読。日本独自の傑作選だが、おそらくシンガーの最良の短篇集になっていると思う。いずれも悪や不条理に対峙する無力な個人を愛情を持って描いていて、その全てに深い感動がある。ユダヤ的な物語でありながら、人と神の関係ではなく、あくまでも人と人の関係の物語であって、その中に絶望も救いも潜んでいる。だからこそ、遠い異国の馴染みの薄い文化に深く根付いた文学なのに登場人物たちを身近に感じるのだろう。この本はきっと天の図書館にもある。2017/03/30