内容説明
荒れ狂う洪水の波に愛する人を奪われて、ついに狂気の人となった男は、人工都市の創造者として君臨する青銅の騎士像との対決に向かっていった…。幻想の都ペテルブルグが生みだした数々の物語の原点となった詩劇『青銅の騎士』と、モーツァルト毒殺説やドン・フアン伝説の逸話を見事に凝縮させながらヨーロッパをかけめぐる「小さな悲劇」四編を本邦初の組み合わせにして、全集翻訳以来30年ぶりに新訳。
著者等紹介
プーシキン,アレクサンドル・セルゲーエヴィチ[プーシキン,アレクサンドルセルゲーエヴィチ][Пушкин,А.С.]
1799‐1837。十九世紀はじめのロシア文学金の時代を代表する詩人であると同時にその後のゴーゴリ、ドストエフスキイ、トルストイ、チェーホフへといたるロシア文学隆盛の原点ともなった詩人。簡潔で美しい表現と現在も古びることのない言葉を築き上げていったその天才性は音楽におけるモーツァルトにも比せられる。詩のほかにも、韻文長編小説『エヴゲーニイ・オネーギン』や『スペードの女王』『大尉の娘』などの小説、『ボリス・ゴドゥノフ』などの戯曲が代表作として知られる。作品はオペラ、演劇、映画の原作となり、現在もロシア本国をはじめ世界各国で上演されている
郡伸哉[コオリシンヤ]
専門は十九世紀ロシア文学。大阪外国語大学大学院修士課程修了。現在、中京大学教養部教授
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感想・レビュー
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SIGERU
8
冬にロシア文学はよく似合う、ということでプーシキン。表題作である叙事詩「青銅の騎士」は、ペテルブルグを襲った大洪水を題材に、若い男女の運命的な悲恋を扱った幻想文学の名編。しかし、この書の白眉は、劈頭に置かれた小さな戯曲「モーツァルトとサリエーリ」だろう。あの傑作映画「アマデウス」にもインスピレーションを与えた濫觴に当たる、ささやかだけれど里程標的な作品だ。ここには、「天才と凡人との宿命的な相克」という永遠のテーマの萌芽が、既にほの見えている。2018/01/03
きゅー
7
4つの短い悲劇と、1つの物語詩を収録。いずれの作品も簡潔な言葉で書かれており、読みやすいのだけど、一文一文をなおざりにできないような深みがあった。特にタイトルの「青銅の騎士」が素晴らしかった。洪水により絶望を味わう一人の男という主題は、私達にはあまりに生々しいのだが、無駄な言葉が排された文章は、そうした悲劇の普遍性を明らかにしている。静謐なサンクト・ペテルブルグの描写との対比も圧巻。 2012/01/24
arianrhod
5
青銅の騎士をずっと読みたい本にしていた。それは高尚な気持ちではなく、さいとうちほのブロンズの天使をずっと以前に読んだ以来の気持ちでした。本著にはラッキーにもモーツァルトとサリエーリや石の客も掲載されていたので、ちょっと得した気分です。フランス語至上だった時代に母国語に口語をとりいれたロシア文学の礎の人。エチオピア(謎)で生まれた曾祖父の数奇な運命によりロシアに育まれることになったドラマティックでロマンティックな彼の人生は、ロシア一ともいえる美しい妻とのエピソードだけでも物語の中のようなのに結構な苦労人。2019/03/20
てれまこし
5
国の英雄である独裁者は、その鉄の意志をもってみすぼらしい低地を一夜にして近代美を備えた帝都に変えた。ロシアを後進国から列強へ変身させる礎を気付いた。しかし、その結果、ロシアの民を恐ろしい運命に引きずりこむ。英雄の遺業は庶民の苦しみの上に築かれる。庶民は自らの生活とは関係のない政治に巻き込まれながらも、自らの力で生活を守ろうとする。ここにロシア写実主義において、国家と社会が区別され、社会の自律性が宣言される最初の一歩が見られる。ロマン主義的反抗が、非凡な英雄への憧憬から群としての民衆の力への期待へと移った。2019/03/11
とまと
2
幼いころに観たきりの映画『アマデウス』を近々もう一度みてみよう。異国の文学でも生きている時代が異なっても想像力を働かせようと今まで以上に努める自分がいたように思う。2012/10/23