内容説明
映画美術に携わる「私」は、友人や家族の動画を撮りためている。未熟で無防備だった十代。恋し、挫折し、傷つきながら、進む方向を模索していた日々。「私」の初恋の記憶は、ある事件によって色彩を失っている。高校時代を共にした個性豊かな男女六人は、互いに離れたり、支え合いながら三十代を迎えた。一つのファイルにまとめた動画は、その記憶をたどるものであり、「私」に次のステップを踏み出すきっかけを与えた。
著者等紹介
チョンセラン[チョンセラン]
鄭世朗。1984年ソウルに生まれ、郊外の一山でニュータウンの発生と発展を観察しつつ成長した。パジュ出版都市にある出版社に編集者として2年余り勤務。小説家としては2010年、『ファンタスティック』誌に発表した短編ファンタジー「ドリーム、ドリーム、ドリーム」を皮切りに本格的な創作活動を始め、『アンダー、サンダー、テンダー』(原題『これくらい近くに』)によって第7回チャンビ長編小説賞を受賞した。純文学からロマンス、SF、ホラーまでジャンルの境界を越えた小説を書くことで知られる
吉川凪[ヨシカワナギ]
大阪生まれ。新聞社勤務を経て韓国に留学、仁荷大学国文科大学院で韓国近代文学を専攻。文学博士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アマニョッキ
53
「人のいないバス停には匂いだけが残っていた。なじみのある匂いだけれど、名前を知らない。風船ガムの匂いだけを残したのは誰だろう。なぜだか、知っている人のような気がした。」最後のセンテンスがこの作品の素晴らしさを物語る。ちょっと言葉にならないぐらい良かった。チョン・セランさんの作品、わたしが知る限りでは日本語訳されているものは2冊だけ。悔しい。もっとセランさんの作品が読みたい。そしてできるならばこの作品をどなたかに映像化してほしい。絶対にばえると思うので、ぜひ!!2020/01/10
星落秋風五丈原
47
年頃になれば、グループ内でも恋の一つや二つは生まれる。ずっと続く仲になるか、それとも短い間になるか。大人になれば「そういうことがあったねぇ」と笑いながら話せるネタが、いくつも生まれた。だが、一つのネタだけはどうしても話せなかった。一人は家族を失い、一人は恋人を失い、一人は友も今までの環境も全て失った。それでも彼等は生き続ける。そこに至る道は決して簡単ではないけれど、時に当たり障りのない言葉で、時にきっぱりした言葉で、同じ時代を過ごした友達を気遣いながら、彼等は嵐をくぐり抜けていく。2017/04/08
りつこ
44
家庭環境やキャラクターは全く違うけれど同じバスを使って高校に通った6人の仲間たち。お互いの苦しい状況は分かっていても何ができるでもない。時に見たくない物は見ないようにしながら、助けられない自分に無力感を感じながらも、離れずに一緒にいる。胸が痛くなるようなひどい出来事も一緒にいて見守っていてくれる人がいるから少しずつ傷が癒えていく。切り取って残しておきたいようなシーンが沢山あって、その多感な時期を「アンダー、サンダー、テンダー」と名付けたのも素晴らしい。良かったー。好きだなー、チョン・セラン。2020/02/28
とよぽん
30
「新しい韓国の文学シリーズ」の13巻目、1984年生まれのチョン・セラン(鄭 世朗)の作品。4年前に出た。日本の小説家がおすすめの本の一冊として挙げている。20世紀末の韓国、田舎の高校生たちの青春群像・・・韓国ならではの状況もあるが、閉塞的な部分と開かれた部分があって面白く読めた。この作家の作品、そしてこのシリーズの他の作家の作品も期待できそう。2019/10/19
はなすけ
21
このシリーズはどれも訳者さんの韓国文学に対する愛情、情熱、一生懸命さが素晴らしい。今回も、それをひしひしと感じた。同じ通学バスに乗り合わせた少年少女たち。青春はキラキラなんてしてなくて、理不尽さや諦めの入り混じった泥の中を必死こいて泳いでいるみたいだ。好きなことに熱中しててもどっか苦しい。「私」とジュワンの淡い恋の結末にはぶっとんだが、このプロセスもまた「私」の将来には欠かせないピースになっていく。面白かったー。2018/07/06