内容説明
『監督 小津安二郎』、『「ボヴァリー夫人」論』、『伯爵夫人』の著者は何者なのか?27人の「非嫡出子」による蓮實重彦論。
目次
姦婦と佩剣―十九世紀のフランス小説『ボヴァリー夫人』を二十一世紀に論じ終えた老齢の批評家の、日本語によるとりとめもないつぶやき
ボヴァリー夫人のことなどお話させていただきます―蓮實重彦先生へ
『「ボヴァリー夫人」論』では思いきり贅沢させていただきました―工藤庸子さんへの返信
義兄弟の肖像―『帝国の陰謀』とその周辺をめぐって
Sign‘O’the Times―『伯爵夫人』を読む
批評と贅沢―『「ボヴァリー夫人」論』をめぐって
「二次創作」に抗する「二次創作」―蓮實重彦『「ボヴァリー夫人」論』の「序章 読むことのはじまりに向けて」と「1 散文と歴史」を読む
A comme art,et.../Aはart(芸術)のA、そして…
塵の教え―フィクションに関するとりとめない註記
さらなる「運動の擁護」へ〔ほか〕
著者等紹介
工藤庸子[クドウヨウコ]
フランス文学・ヨーロッパ地域文化研究。1944年埼玉県生まれ。東京大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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しゅん
14
特に面白かったのは菅谷憲興と中島一夫の二論だが、共に中村光夫と蓮實の関係について触れている。今では名作と謳われる作品の記念碑性を疑い、生成段階を思考すること。小林秀雄~吉本隆明ラインの不幸を根拠とする批評から離れること。大きくその2点において、中村の方法は蓮實に引き継がれている。中村は『明治文学史』などの歴史を綴った作家でもあるが、蓮實における「文学史」と「映画史」の扱いの微妙さを綴った片岡大右の論は示唆に富む。一貫して「文学史」は冷遇するが、「映画史」については時に肯定し時に否定する蓮實。2022/12/10
deerglove
1
何とも美しい佇まいの一冊。その装丁、デザイン、フォント、紙質。実物を手に取ると、どこをとっても選び抜かれ考え抜かれたものであることが確かに伝わります。私は蓮實さんではなく濱口監督目当てで本を探していたらたまたま見つけた口ですが、やっぱり蓮實先生の文章にはしびれましたね。「わたくしの中で不穏に揺れ動く」何かは、いうまでもなく濱口竜介に、三宅唱に、小森はるかに受け継がれており、今は亡き青山監督の「素っ頓狂な声」を再現してくれるとよた真帆の文章につい「特別な親愛感」を想起してしまいそうになりました。2025/02/06
トックン
1
中島一夫の論文だけ。中村光夫=蓮實による小林=吉本の批評観≒悲劇を破壊する試み。中村=蓮實的批評の眼目は批評する対象物を「仮死」に追い込むことにある。つまり共和制。表象=代行システム(文学)ではなく作為による大統領の選出を目論むことと宮本顕治の「敗北の文学」による戦略としての文学の追放を評価する蓮實の論旨を解明。平野謙が「私小説論」に人民戦線論を夢見たことで明らかなように小林の考は妥協的連帯へと堕す。表象代理による接続過剰は社会化という名のファッショへつながるので蓮實は批評=仮死により個を活する道を選ぶ。2017/03/31