内容説明
はばたく言葉、みずみずしい抒情、そして自由なる詩想。幻の第一歌集、刊行より24年を経て、待望の新装版。
目次
まるい食卓
四角い食卓
楕円の食卓
いびつな食卓
街の食卓
星の食卓
食卓の音楽 栞
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まこみや
43
歌人曰く、「生命の流れの瞬間瞬間に心の触手が捉えたもの、そこにこそ短歌の源泉がある」と。印象に残った歌はたくさんありますが、そのいくつかをここに書き抜いておきます。 ▶︎ゆっくりと地下へのめりてゆく電車ー大切なことが思い出せない ▶︎若き日の余儀なき記憶 兎穴に降りゆきしまま帰らぬアリス ▶︎かなしみよりもっとも無縁なところにてりんごの芯が蜜を貯めいる ▶︎〈空白〉が逃げないように透明のガラスを閉してこもる雪の日 ▶︎たくさんの空の遠さに囲まれし人さし指の秋の灯台 いやぁ、キリがありません。2024/12/05
あや
27
著者杉﨑恒夫さんは1919年静岡生まれ。終戦時より国立天文台にお勤めでいらした。この歌集は第一歌集であり、生前にご出版された唯一の歌集である。1987年に沖積舎より出版されたが没後2011年に六花書林より再販され私が所持しているのは4刷である。没後出版された第二歌集『パン屋のパンセ』を先に読む。敬愛する歌人千葉聡さんが杉﨑さんのようになりたいとおっしゃっていたのでこちらも手に取った次第。食卓と音楽にまつわる歌がやはり良い。栞文の井辻朱美さんの文章が美しく、新版あとがきのご長男様の引用の若き日の作品も素敵。2024/09/24
まみ
15
パン屋のパンセ(第二歌集)は大好きで何度も読んだけれどこちらは初読み。一首めの「ティ・カップに内接円をなすレモン占星術をかつて信ぜず」からきゅんとなる。幾何学的な見立てをした上でレモンの切り口にホロスコープを見る。見ているものは日常のなんでもないものなのに、発想の転換の角度が素敵。2012/09/04
Timothy
10
『パン屋のパンセ』がよかったので第一歌集の方も。歌集としてはこの二冊きりなのが惜しい。共感し代弁されるような気持ちになることが多かった『パンセ』に比べ、こちらは動植物や楽器などの名前の織り込み方、特に比喩、見立て(?)に感心する歌が多かった気がする。言葉選びや文体の美しさ、どこかほっとする柔和さ、あたたかさは共通している。そしてそれには(体感主に動詞形容詞の)漢字の開き方も明らかに影響しているのだが、一方で私には読めない漢字も(主に名詞に)散見される二冊だった。一方を薦めるとしたら私は『パンセ』だろうか。2022/05/03
とある聖職志願者。
4
「パン屋のパンセ」著者による第一歌集。 「ひしめきて壺に挿される薔薇たちの自分以外の棘を痛がる」 「「立ち読みせしサン=テグジュペリのひと言が心に残り本屋をいずる」 「逆風に向かいて高くひるがえる燕は空のアクサンテギュ」 「もろもろの思い出がゆっくり立ち上がる立体絵本 雲多き午後」 「復活祭の紅き卵をわけくれし日曜学校の先生きみは」 私も棘あるんでしょうけど、他の人の棘が痛いです。2016/09/22