感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
qoop
8
老境を迎えた著者が少年時代を過ごした町・ナント。単純な回顧録ではなく、当時の出来事がどう抽出され著者を形作ったかを意識させる点で著者自身の今・ここと直結している。具体/具象的な知己の想い出が示されず、町並みだけが広がる夢の中の景色を想起させる文章。あちらこちらへと飛ぶ筆法もシュルレアリスティック。著者の視点がメルクマールに据えられることなく〈町のにおいや日焼けの退色や肌のきめのほうに向けられ〉(p121)ているのは大きな要因だろう。シュルレアリスムとポストモダンの邂逅という視点も興味深い。2017/04/26
まんだむ
2
記憶のなかの町と、現在の町が混じり合う、そんなナントの町を、グラックの想像力でもって歩いていく。じっくりじっくり読み進めると、先程まで歩いていた路地や、景色は、淡く消えて、違う場所まで来ていることに気がつく。断片的なイメージが繋ぎ合わさり、ひとつの町のかたちが現れる。一歩引いた視点から描かれる町は、ともすれば淡白に思えるかも知れないけれど、どこか温かみがあるのは、グラックの眼差しの優しさなのだと思う。2019/01/13