内容説明
メルヘンの語り部はひそかに血を流していた…「古きよき家族」という昭和のメルヘンになった『父の詫び状』。成功を収めた天才作家の光と影を描く、全く新しい「向田邦子論」。
目次
第1章 湯タンポのぬくもり
第2章 メルヘン誕生
第3章 潰れた鶴
第4章 思い出トランプ
第5章 ドラマと活字
第6章 死への疾走
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
T. Tokunaga
6
書誌学的な方法とはなにかが具体的によくわかる現代文学の研究であるが、一般書としても書かれているという勉強になる本。2024/04/01
taro
4
向田邦子の本よりおもしろい。作家も高島俊男みたいな人に読まれたら、あら探しされてたまらないだろう。それにしても向田邦子は才能溢れる作家だったが、時代設定が乱暴だった。だから、戦後の日本の時代を正確に知るための資料としては相応しくない。だから、メルヘン誕生という。「コジキの虱を養うごとく、我らは愛しき悔恨を養う」。向田邦子さんには、結婚か男女のことかに愛しき悔いがあった。エッセイで語れなかった真実を小説で語るという逆説。2016/09/19
二里
2
あの高島俊男がタイトルに「メルヘン」となっ! と驚いて購入。向田邦子が「古き良き時代のメルヘン」として描いた(描かざるを得なかった)昭和初期の家族について検証し、彼女自身の人生にも切り込んでいく。向田邦子の思い違いや考証不足を多々指摘しているのは高島俊男の本領発揮というところだが、本書では「レール通りに歩けなかった者への共感」という、この人には珍しいウェットな感情も書かれているのが興味深い。ただ、テレビドラマを見慣れていないとのことで、脚本については本書の対象外。これは向田ファンとしてはどうなんだろう。2014/11/02
でろり~ん
1
初めての作者。面白そう、というよりアイロニカルなタイトルの本を相当数著している人のようですが、手にしたのは2000年発行の第1刷。ん~、向田邦子に関する本って、もっと人気がある気がするけれど、どうなんでしょか。メルヘン誕生とか、うまいとか言いながら、向田邦子がコテンパンなところが面白いところなんだろうけれど、そうは読めない。年代的な辻褄の指摘はアカデミックで説得力のあるものでしたが、言葉を読む側に与えるイメージの創り方が何よりの魅力であったことを、この作者は本当には理解していない、したくない印象でした。2016/12/10
タイコウチ
1
向田邦子の文章作品を読み込み、雑誌初出と単行本の違いまで徹底的に分析し、緻密な時代考証を重ねることで、彼女の実像を説得力をもって浮かび上がらせる。普通の幸せをつかみそこなったことをコンプレックスとし、実は男になりたかった粗忽者であるというような、おそらく向田信者には堪え難いほど辛辣ともいえる物言いが続くが、その裏には著者なりの愛惜の念がおかれており、一見才能豊かだが実は不器用な面を併せ持つ姉を慕う弟的な視点といえるだろう。わかりにくいタイトルは、彼女が描き出した昭和10年代の姿もまた虚構であるということ。2010/12/25