出版社内容情報
山間の一軒家でひとり仕立てをしてきたおばあさん。ある夜更け、訪れた狐の母娘に、娘の花嫁衣裳を縫ってほしいと頼まれる。明日の日の入りまでにという、無理な注文を引き受けたおばあさんは、職人の意地をかけて縫いつづける。そして、約束どおり仕立て上げたおばあさんは、そのまま帰らぬ人に。二十三夜の月明かりのもと、狐の婚礼がおごそかにとり行われる。
仕立て職人のおばあさんの生涯と、狐の母娘との心の交流を、巧みに織り交ぜて語られる物語。過去と現在、現実と幻とがないまぜの世界を、繊細に、あでやかに表現した絵が、さらに趣をそえてみごと。
小学校高学年から。日本図書館協会選定図書。
「狐の振袖」讃 さねとうあきら
腕自慢の仕立屋のおばあさんが、一世一代、精魂込めた大傑作は、母子狐のために一晩かけて縫い上げた、山の紅葉を散りばめた振袖でした。生まれ育った郷里への激しい愛着、作者自身も長年続けた針仕事の豊富な経験に支えられて、山里に展開する老女と狐のファンタジーに、臨場感あふれるたしかな手応えを与えるのに成功しています。丹念に織りあげたつづれ織りを思わせる、華やかで深い味わいは、創作民話としても一級品の風格をそなえているといえましょう。