内容説明
天啓とその才能ゆえに生涯を孤立無援に闘い抜いた抒情詩人ボリース・パステルナーク畢生の長篇『ドクトル・ジヴァゴ』―。いわくつきの大作の朗読とその全篇の録音を依頼されたシベリアから交換研究で来日中の日本学者アナスタシア・アンドレーエヴナ―。崩壊寸前のソ連邦に見切りをつけ亡命を企てる地球環境学者の夫、幼気な愛息は老いた両親に預け―。さまざまな不安を抱えながらも一と冬三ヶ月で録音を完結させた。作品の精読とは作品を生きることであった。
著者等紹介
工藤正廣[クドウマサヒロ]
1943年青森県黒石生まれ。北海道大学露文科卒。東京外国語大学大学院スラブ系言語修士課程修了。現在北海道大学名誉教授。ロシア文学者・詩人(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かもめ通信
23
幼い息子を両親に預け、研究のために日本で暮らしているアナスタシアは、倹約に倹約を重ねながら、北海道の厳しい冬を乗り越えようとしていた。そんなとき、プロフェッサーKから『ドクトル・ジヴァゴ』の“音訳”を依頼される。渡されたテキストは、15年前、アナスタシアが親友と共に夢中で読んだ、初のロシア語版『ドクトル・ジヴァゴ』だった。ジヴァゴの翻訳を手がけた著者が実話を元に執筆した小説。音訳を手がけた女性自身の手記であれば全く違ったものになったであろうとは思うが、ジヴァゴ「翻訳前日譚」としてはなるほどと思わせる一作。2021/12/20
赤とんぼ
7
ロシア語の翻訳をされてきた著者による、「ドクトル・ジヴァゴ」訳にあたって、ドクトル・ジヴァゴの朗読テープを読まれたアナスタシアさんの物語。とても美しい言葉で描かれており、豊かな読書時間を楽しむことができました。 「さあ、今日も生きよう、こんなにひとりぼっちであっても、生きること、生きて生きて、最後まで生ききること、と朝のアナスタシアは、つぶやき、そして朝の悲しみをそっと余白におき、孤独な一日を始めること、それにもたくさんの細々とした雑事があること、それらをぞんざいにせずに、きちんと動きながらも心の幸いを2022/02/06