内容説明
ノーベル賞作家I・B・シンガーの紡ぎ出す記憶。ラビの許、貧しくも敬虔に生きるユダヤ街の人々。一九四三年ワルシャワのゲットー蜂起で消滅した古き良き時代のクロホマルナ通りへのオマージュ。人々の多様性と、困難な生活故になお心を揺さぶられ「今ここ」を超えた永遠の故郷、ユートピアへの憧憬に滔滔とよどみなく流れる時と、何とも譬えようのない美しいものの横溢が感じられるノスタルジー掌篇集。
著者等紹介
シンガー,アイザック・バシェヴィス[シンガー,アイザックバシェヴィス][Singer,Isaac Bashevis]
1904?~91。本名をイツハク・ジンゲル(Yitskhok Zinger)、ポーランドはワルシャワ近郊の町、レオンチンに生まれる。1908~17年の多感な幼少年時代を後にワルシャワゲットーとなる地域で過ごしつつ文学を志す。1935年アメリカに移住し、作家となる。1978年ノーベル文学賞受賞。アメリカを代表する作家としての地位を築き上げてからも、依然として失われた共同体の言語であるイディッシュ語で物語を紡ぎ出し、戦前のユダヤ人の世界、わけてもその家族を作品中にとどめようとした
桑山孝子[クワヤマタカコ]
千葉大学大学院文学研究科修士課程修了、関西学院大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。同大学文学部非常勤講師。専門は英米近現代詩、ユダヤ系アメリカ文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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踊る猫
25
シンガーの短編を纏まった形で読むのはこれが初めてになる。ダニロ・キシュにも似た風情、と書くと頓珍漢が過ぎるだろうか……ユダヤ系作家のアイデンティティを求めて、幼少期を放浪する少年の姿がしかしここには生々しく、連作短編集として纏まっているように思われたのだ。「スジ」を追い求める読み方を放棄して、桑山孝子による訳文の美しさを堪能する読み方をしてしまったのだが、邪道だろうか? この一冊でシンガーを知ったと語るとまたこれも頓珍漢になるが、だが偉大さの片鱗は掴めたように思われる。ユダヤ系作家の世界をまた掘り下げたい2018/09/27
はやしま
17
27話中14話は「ワルシャワで大人になっていく少年の物語」と同じ内容だった。子供の成長譚らしさがあった「ワルシャワで…」に対し、本作は題名の通り父のもとに舞い込んでくるユダヤ社会の様々な相談事、また親戚や近隣の大人の話、宗教に基づいた日常がより詳細に描かれ、今はなきワルシャワのユダヤ人街の様子が浮かび上がる作品。自身はWWII直前に米国へ移住したが母と弟は戦争中強制連行されて殺害され、作中の他の人物も多くが生死不明、さらに街も破壊された作者はこの「メモワール」を書くことで「故郷」を取り戻したのだろう。2016/02/06
アトレーユ
10
子供目線(やたら分別のある目線だが)で描かれるユダヤ人の生活・日常。世俗的な日常(離婚だの自営だの洗濯だの)にも神の導きから外れてはならないと思う信仰の深さ。それが当たり前の人生。信仰ありきの人生は日本人にはなかなか理解は難しいのかもしれないが、真摯な生き方に思えた。さらに文章が柔らかく感じるのが郷愁を誘うのかも?2020/06/04
はる
8
シンプソン家リサが憧れた数学の世界に男装の前身はアイザック・B・シンガーの描いたタルムードを学ぶ男装のイエントルでした。敬虔なラビの父の法廷ではワルシャワゲットーの内側世界を作者10代の目を通し描いている。安息日や贖罪の日、他の多くの祝日が出エジプト後の民族苦難の歴史を記憶に刻むため、当時の東欧ユダヤ人はイディシュ語を喋りポーランド語を余り解さず肩身を寄せ会っていた。そんな思い出一つ一つの小品が素晴らしくリアルだった。2022/10/09
刳森伸一
5
遠い異国のほとんど関わりのないような文化の中で生きたシンガーの個人的なメモリアルがどうしてこうも胸を打つのだろうか。失われた少年時代とポーランドユダヤ人コミュニティへの深い愛情と、それらを本の中で蘇らせようとする強い意思を感じる傑作。惜しむらくは抄訳。いつか全訳が読める日が来らんことを。2016/09/30
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