内容説明
奔放な語りの中に皮肉と諧謔で圧政粛正を野次り倒し「巨匠とマルガリータ」「犬の心臓」「運命の卵」等々作品が悉皆発禁となったブルガーコフ、医師・従軍・文筆家への転進、ほぼ自伝的と言われる初期作品集。
著者等紹介
ブルガーコフ,ミハイル・アファナシエヴィチ[ブルガーコフ,ミハイルアファナシエヴィチ][Булгаков,Михаил Афанасьевич]
1891年ウクライナのキエフ市生まれ。1916年キエフ大学医学部卒業後、軍の前線病院、僻地の自治会病院等に勤務。ジフテリアに感染し、その際使用したモルヒネの中毒となる。帰郷し中毒を脱した後、コサックの軍医としてカフカスからチェチェンに赴く。権力に無批判に従う軍務に疑問を抱き、1920年には文筆活動に転進。国政に対しシニカルな作品が多く、小説・戯曲・評論、ことごとく発禁となる。スターリンに国外退去を願うもかなわず、失意の内に1940年没。ノヴォデヴィチ墓地のチェーホフやゴーゴリの傍に眠る。1966年作品の再評価と名誉回復がなされた
町田清朗[マチダセイロウ]
1938年弘前市生まれ。1957年青森県立弘前高校卒業。弘前大学医学部外科学第一講座修了。現在医療法人ときわ会老健施設明生園勤務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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燃えつきた棒
40
ブルガーコフは、ウクライナ生まれのソ連の作家である。 できれば、ウクライナのホロドモール(1932〜33年にウクライナを中心として引き起こされた、富農撲滅を目的とした政策的大飢饉)の後で書かれた小説を読んでみたかったのだが、本書に収録されている短篇の中で最も後で書かれた表題作でも1927年に出版されたものでしかない。 革命直後の混乱に巻き込まれた作家の苦闘は描かれているが、周囲の民衆の姿はあまり見えてこなかった。 僕には、あまり心に残る作品はなかった。2022/03/24
cockroach's garten
20
ブルガーコフが初期に書いた短編を集めた本。生前は抹殺されていたのもうなずけるような、どことなく形式主義に対する皮肉さと理不尽さが現れていたように思えた。ソルジェニーツィンの短編を思い起こさせた。表題作の麻薬に苦しむ主人公を書いた『モルヒネ』をはじめ、ブルガーコフの物語はコメディ調から悲哀物まで幅広い。2020/10/31
黒豆
13
作者の故郷であるキエフ、医師として勤務していたニコーリスク、内戦の戦場となっていたカフカース山岳地帯などを舞台とした、自伝的な色合いの濃い初期の作品集。青年期を過ごした場所への思い入れの強さを感じた。飢餓、発疹チフス、モルヒネ中毒、亡命の失敗、離婚…と、苦難に満ちた半生だったようで、この頃はまだマジックリアリズムの世界を描くほどの余裕がなかったようだ。お得意の皮肉やユーモアはちらちらと見え始めていて、これが後の作品に繋がっていくのだろうと思うと興味深かった。2015/04/22
よしじ乃輔
12
ロシア支配下ウクライナ出身の軍医でありロシアへの批判により作品がほぼ発禁となったという著者。タイトルの「モルヒネ」他短編。タイトルの「モルヒネ」は段々と中毒になってゆく自分を医者でもある当人の目でおった自伝的小説。ロシアや東欧の作品はどこかシニカルで俯瞰的に感じます。職業柄なのか他国のジャンキーよりも荒れ狂ってない感じなのに、中毒の辛さは十分伝わるんですよね…。自分にフォーカスした作品が多かった印象。2025/01/25
きゅー
10
ブルガーコフの初期の短篇集。新聞記事の一形式としてのフェイエトン(文芸時評、社会批評などを軽妙洒脱な文体で記す形式)を中心にした収録作品となっている。初期短篇集ということで、物足りなさはあるけれど、なかなか面白かった。タイトルにもなっている「モルヒネ」は、ブルガーコフ自身の体験として薬物中毒になった時の様子が生々しい。医者でもあった彼は、病院のモルヒネを内緒で自分に打ち、ついには病院のハンコを偽造して薬局でモルヒネを入手しようと奔走する。彼を諌めようとする、愛人の心労が切ない。 2012/06/07
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