出版社内容情報
港の人創立20周年記念出版
◎現代詩を代表する詩人・北村太郎は、近年、エッセイ集『光が射してくる』『樹上の猫』、北村太郎の日常風景を淡々と素朴な筆致で描いた『珈琲とエクレアと詩人 スケッチ・北村太郎』4刷、橋口幸子著、小説『荒地の恋』ねじめ正一著などで知られる。ファンからながく待望されていた、読売文学賞受賞の名詩集『港の人』を復刊する!
◎『港の人』には33篇の作品が収められ、詩人独自の死生観から社会を穿ち、根源的な生のあり方を照射する。
◎巻末には、あらたに発見された単行本未収録詩4篇を収録。北村太郎のやさしさに触れる詩篇でたまらなくいい。
◎解説は、詩人・平出隆。『港の人』についての解説のほか、詩人が目撃した北村太郎の生きようを丁寧に描き、北村太郎の魅力を語り尽くす。
◎函の装画は、岡鹿之助作「古港」。端正な装本がひときわ美しく輝いている。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
チェアー
12
もうこの場所でいいんだと思うこころと、いや、俺は別の場所にいるべきなんだと思うこころが、1人の男性の姿として像を結ぶ。装丁も素晴らしい。2018/01/10
いやしの本棚
10
ひどく寒く感じられる曇り日だったからか、風邪をひいているせいなのか、読み終えて、灰色の海と、そこからつづく、すこしくらい雲の色の印象で満たされた。不明瞭な水平線、生と死の間(あわい)に、ひとり。でもきっと、あかるく晴れた日に読んでも、詩人はひとりでいるだろう。寄り添ってくれたりしないし、こっちが寄り添うこともしずかに拒まれている。これはそういう本だから。ひとりの読者とひとりの詩人の、パラレル。「いかんせん 骨の白きを/といわんばかりに/風がふく」2017/11/19
parakeet_woman
3
港とは横浜。詩人が都会の港に見るのは老いた自らである。「あの貨物船/どうみてもうつむいている老いたる浮浪者だった」。私に血が通い匂いを放つ海と船の記憶がないように、たぶん詩人にもない。この港はあくまでも都市の一部だ。「都市は輝いて見える/すべての階段は/寛大に簡潔にひびき/街路樹は/こころよく全体を開いている」が、「一日は/一生として/まもなく/まったく同じあすを夢見るだけである」。「死とは固有名詞との別れ」と詩人は言う。都市、つまり固有名詞と匿名性の狭間で詩人は自らの生をやり過ごし、死を待つのである。2019/05/25
zeeen
0
装丁がよく、ずっと触れていたくなる詩集。曇天の港の景色が目に浮かび、そこかしこに死の匂いを感じた。2024/12/27
刻青
0
不思議な詩人。この人の詩を読むといつも思うのは、この人はどこにいるんだろう、ということだ。それくらい、うすい、感じの詩と思う。特にこれはその感じが強く、一応詩人の歩く道、心、日常はそこにあるのだけど、いなくなったってなんにもかわんないよ、って感じがする。切なさとは違う。乾いていること。朝の白い光り。いったいなんだろう?声はたしかに聴こえてくるのに、姿が見えない。足音が聞こえない。 とにかく、稀有な詩人だと思う。 「午後 やました公園をひとまわりして 部屋に帰って 静物の位置をすこしなおす」2021/06/05