内容説明
十才のぼくは、両親が家を留守にしているので、母の女友達のところにあずけられている。パリ近郊にあるその家は、いろいろな人たちがやってくる。そしてぼくは、まだ小学生になっていない弟と一緒に、近くにある城館への探検を試みたり、プレゼントにもらった電気豆自動車でどう遊んだらいいか悩んだり、秘密にしている水車小屋へ行ったりする毎日だ。家にやって来る大人たちも面白いし、とても親切にしてくれる。ところが、家に何人かお客さんが来ることになって、弟とぼくは向かいの家で何日か過ごさなければならなくなった。その二日目の午後のこと、驚いたことに弟がたった一人で小学校へぼくを迎えに来たのだった…。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
78
10歳の僕はちょっと、変わっているけど、子供たちに寄り添ってくれる大人たちに囲まれ過ごしていた。姉にも母にもなってくれる優しくも謎めいたお姉さんたち、陽気で気前がいい男たち、気ままな放浪暮らし、初めてのノワール小説、失敗に終わったお城探検。だけど、少年の瑞々しい視点はそれ故に切羽詰まった大人達と、フランスのヴィシー政権時の罪をも捉えてしまう。子供時代はいつも大人の視点を持つことで終わってしまう。最後に黒革の外套を着た男達がいる中で誰かが呼びに来るまで何も気づかないようにして待っている姿に震えるしかない。2018/08/01
きゅー
12
モディアノの作品を読むと、いつも霧の中を歩いているような気分になる。もったいぶった書き方をするものだから、はやく教えてくれよと思いつつ読み進めるが、結局最後まで読んでも、ネタ明かしはしないという、じらし手法。もちろん所々で出てくる情報から想像でき、フランス人の読者にとってはほぼ自明のことなのかもしれない。しかし普通の読者が求めるような、最後にまとまりがつくという小説を予期していると、肩透かしを食うことになる。薄くて、読みやすく、ミステリー風味で、第二次世界大戦での功罪を扱うなど、受けやすい要素はたっぷり。2012/06/08
花野
5
謎が徐々に明かされているような、そうでもないようなぼやけた語り口。2014/12/10
kurumi
3
子供達が過去に過ごした家に残るガラス(記憶)は、心にのしかかる暗さや切なさとなり、いつの間に消えそうになった物を掴み取る程の弱さを導き出す。わたしは切なくなった。誰も子供達に愛を与えていないような気がして…よくはしてくれたかもしれないけれど、違和感が離れない。だからこそ嫌なことは後まわしなのかと…1種のホラーではないか?最後に残るのは孤独。小さな子供にはまだ早すぎる重さである。2022/03/16
エボシペンギン
2
少年の周囲が不穏な空気に包まれていく感じ、しんどい。2017/06/13