内容説明
自らへおくる挽歌として自選222句。生の虚無から死の豊饒へ。俳句形式の中で解き放たれた自在なる魂と、その成熟した作品の数々。著者の魅力のすべてがこの一冊に。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
31
句集。どの句も私好みで外れなし。二百二十二句が収録されているが、其々の持つ密度が只事ではない。「首縄の下がる枝より枯れはじむ」「祭の灯なかの一軒葬りの灯」こんな一見普通の風景を描いているようで、その背後にある不穏な雰囲気だけがどこまでも高まっていく、こんな感じは上質の怪談を読む度に味あわされる空気にどこか似ている。以前読んだ『怖い俳句』に俳句の短さは雰囲気を醸し出すのに最適というような事を書いていたが、この句集全ての句が持つ雰囲気は尋常ではなかった。「春の日やあの世この世と馬車を駆り」2013/04/10
ふるい
11
死の影の濃い四季。魂の変遷。〈愛重たし死して開かぬ蝶の翅〉〈百合剪つてくれし少年尼僧めく〉〈雪明り虚ろの姉に添ひ寝して〉2019/09/22
nininice
4
薄っすらよその世界に通じていそうな、どことなく不穏な空気が漂っていて、じっくり読み進めるといつかそちらに足を踏み入れてしまいそう…。春季「桃散つて夢のあとさき狂ひけり」夏季「白地着て己れよりして霞むかな」秋季「露草の露や半身滴れり」冬季「鳥影かはた人影か白障子」2017/07/18
いやしの本棚
1
瀟洒な造本、白い表紙、「みずからへおくる挽歌」としての句集の性格からか、死に近い、慕わしい感覚が、暗闇というよりどこか仄明るい読後感につながっており、皆川博子「空の色さえ」を読んだ時の感じを思い出した。此岸と彼岸を往還する魂を感じさせる句の数々は、俳句に詳しくなくとも胸にも響く。「跫音や水底は鐘鳴りひびき」「貌が棲む芒の中の捨て鏡」「睡蓮や聞き覚えある水の私語」「まさぐる終焉手に残りしは苦蓬」「黄泉に来てまだ髪梳くは寂しけれ」2014/11/05
え
0
「愛重たし死して開かぬ蝶の翅」「一度死ぬ再び桔梗となるために」「貌が棲む芒の中の捨て鏡」「桃の木や童子童女が鈴生りに」「おんおんと氷河を辷る乳母車」「撃たれても愛のかたちに翅ひらく」「狂ひ泣きして熟練の鸚鵡をくびる」2017/03/14