内容説明
哀しくて、愛おしくて、切なくて。飼い猫なのに家人にもなつかず、おどおど、びくびくしながら、床下と土間を行ったり来たりの“灰かぶり猫”。小学校中学年以上向き。
著者等紹介
鈴木節子[スズキセツコ]
昭和5年(1930年)、岩手県盛岡市生まれ。父親の転勤に伴い、福島県、宮城県等で幼児期を過ごし、父の病死により、父の故郷・福島県守山町(後に郡山市に合併)へ移住。福島県立安積高等女学校(現在、安積黎明高校)、福島大学学芸部教員養成科出身。郡山市立橘小学校を最後に、37年間の教員生活を送る。現在は俳画や写真を趣味とし、思い出話を叔母や兄に書き送るうちに、当時の貧しさの中にも数々の感動があった暮らしを、孫世代の今の子どもたちにも伝え残したいと思い、本格的に物語の執筆も始める。「おさん」はその第1作目
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぶち
100
図書館の開架棚で偶然に出会った猫の児童書。ドキュメンタル童話というサブタイトルが付いているように、著者が戦争が終わった頃に実際に体験した、ある猫の切ないお話しです。人間を極度に恐れる飼い猫の"おさん"は、飼猫なのに家の人にもなつかなかったのです。そんな"おさん"が生涯で一匹だけ子どもを産みました。そして、子どものために自分の命を張ったのです。哀しくて、切なくて、重いものが胸にきて、涙が滲んできました。"おさん"、天国では子どもとたくさん遊んで、幸せになってね。2020/12/04
アクビちゃん@新潮部😻
64
【図書館】おさんという猫は、人に懐かず寄らず、土間で前脚を揃えて行儀よく座っている様子から『おさんどん』さんみたいという事から付けられた名前だそうです。おさんの父猫も母猫も同じ家に住んでいるのに、おさんが床下から出てくるのは、人間が寝静まってから… そんな人間も、下手してら親猫でさえも怖がる、おさんが母猫になった時の出来事が、もう泣けます❢ 愛を知らずに育った猫だからといって、母性がない訳じゃないし、愛がない訳でもない!と、いう事を教えてくれます。猫って、猫なだけでいいんですよ〜2021/01/12
うしこ@灯れ松明の火(文庫フリークさんに賛同)
41
忘れられない猫がいる。それは殊更可愛がった猫ではなく、むしろその逆の猫で・・。著者の体験談です。飼い猫として生まれたのに、人間を恐れ一向に懐かなかった猫・おさん。何とも不器用なおさんの生き方が可哀想で仕方がなかったです。読みながら何度となく胸がつまりました。特に囲炉裏ごたつに入りたいのに人間がいるので入れず、寒いのを我慢して部屋の隅っこにそっと座っている姿は、胸をかきむしりたくなりました。短い間だったとはいえ、おさんが産んだ子猫が少しでも心の慰みになったことを祈らずにはいられません。★★★★2012/03/29
たまきら
26
代々飼った様々な猫の中でどうしても忘れられない子…。著者にとっては一度だけ抱くことができたおさんでした。読みながら、自分が歴代共に過ごした数々の猫を思い出しました。赤ちゃんだった私にバッタなどの獲物をとってきたというクロートニー。父親が銀座のホステスからおしつけられたノエル。自分が数学の先生からおしつけられたジェイク。自分の高校入試の日に死んだピータン。初めて母より自分を飼い主と思ってくれたキキ…。書いてたらきりがないぐらい。でも不憫な思いをさせた子ほど、心に刺さるのかもしれないな。読み友さんから。2020/12/11
鈴
14
うしこさんの感想を読んで気になったので。こんな猫の一生もあるんだなぁと切なくなる。ラストは衝撃的で涙。ちょうど我が家にも「おさん」のように全くなつかない猫がやってくる。野良猫だからきっと人間にいじめられた経験があるんだろうと思っていたが、まさか「おさん」のように飼い猫なのになつかない猫もいるなんて。幼少期の育てられ方って大事なんだなと思った。孤独な「おさん」、彼女は幸せだったのだろうか。少なくとも我が子と暮らした時間は幸せだったんだよね。2012/04/13