内容説明
輝く金髪、雪花石膏のような肌、うつろな眼差し―やがて作家となった孤独な少女の半生。カヴァン長編第一作、本邦初訳。
著者等紹介
カヴァン,アンナ[カヴァン,アンナ] [Kavan,Anna]
1901年、フランス在住の裕福なイギリス人の両親のもとにヘレン・エミリー・ウッズとして生まれる。1920年代から30年代にかけて、最初の結婚の際の姓名であるヘレン・ファーガソン名義で小説を発表する。幼い頃から不安定な精神状態にあり、結婚生活が破綻した頃からヘロインを常用する。精神病院に入院していた頃の体験を元にした作品集『アサイラム・ピース』(40)からアンナ・カヴァンと改名する。終末的な傑作長篇『氷』(67)を発表した翌年の1968年、死去
細美遙子[ホソミヨウコ]
1960年、高知県高知市生まれ。高知大学文学部人文学科卒業、専攻は心理学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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星落秋風五丈原
32
親から愛されなかった娘が居場所をなくしたまま複数の男性と恋に落ちるがちっとも幸せに見えず、やっと作家になった時だけ自分らしく振る舞える。彼女の犠牲になった娘が悲惨過ぎる。2016/09/29
R子
22
シーリアは自分の居場所を見出そうと、愛し愛されることを望んだだけだ。それでも幸せな時間の終わりが、彼女の心を完全に砕いてしまった。周囲の人々を犠牲にして高みへいくことにも心は痛まず、母マリオットや子クレアとも互いに無関心なまま虚ろな心を抱えて生きていく。どこかでこの家族の哀しい連鎖を止めることは出来なかったのかと考えずにはいられない。囚われないよう逃げなければという衝動に惹き込まれた。2016/08/22
rinakko
20
人を寄せ付けない、交わらない。その術も持たない。アンナ・カヴァンのヒロインたちの、そこに魅かれる。凍てつく白の純度、ひりり。硬く閉ざした心の拙く特異な強張りに、蒼褪めた容姿にも、傾倒してしまう自分がいる‥。とは言え、そもそも愛のなかった繋がりには憎しみすら生まれることはない‥と、母娘の虚ろな連鎖を見せられ突きつけられ、射竦められた。そして、己の淋しさを抱きしめて蹲るような感受性からは断絶した、孤独もあるのだと。そこに絶望の叫びはなく温度もなく、その冴えた白さは完結する。彼女の空っぽの強さに誰も救われない。2016/08/02
いやしの本棚
16
カヴァン改名後の初の長篇とのことで、『愛の渇き』の原型の作品のようにも思える。妊娠出産への嫌悪と恐怖の描写が凄まじい。そしてあまりに真実だと思う。シーリアから「引きちぎられた」娘クレアは、彼女の不安の影でしかなかったのだろう。祖母・娘・孫娘、女三代の宿命の物語とも言えるけれど…女三代という語感が似合わない…ここには愛も憎しみもない、ただ虚ろな魂を抱いた女性たちが、人生という牢獄から逃げつづけ、そして囚われつづけている。そんなカヴァンの小説が、わたしは好きだ。2016/08/10
不在証明
9
血を分けたからといって身内は他人であるからして、産んだ娘を愛せない母親がいるのは仕方のないこと。好き嫌いの問題、と断言は簡潔に過ぎるかもしれないが、惜しみない愛を注ぎたくなる人もいればどうして好きになれない人もいて、それが自分の子供だったというだけの話。シーリアの、娘クレアにした仕打ちはとりもなおさず自らが両親にされたことと同じで、無関心ならば関わらなければ良かったのにと思う。他にクレアを愛してくれる人がいるのだから。限られた世界で生きて行くつもりならば、新たな枝を伸ばしてはならない。クレアが只々不憫。2017/10/02