内容説明
この1冊には子ども大人といった区分けを超えて、一人の人間に対しての強いメッセージが籠められている。何故巨卵が産み落とされたのか。何故巨鳥自らが人と戦わずして、仲間と共に無数の巨卵を産みつけ、去っていったものか。おしまいの見開きの左頁に描かれた巨鳥の眼の怖さの向うに、あなたが何を読みとるか、光なのか闇なのか…。そこに、産み落とされ増えつづける人間の象徴を見ようと、つくり出され増えつづける“核”の象徴を見ようと、如何なる“寓話”を読みとられようと―それは読者の判断というか、読みに委ねられている…。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やすらぎ
183
ある日そこにあった「たまご」。そこに迷い混む人々がいくら騒いでも、その存在の大きさと我の小ささに何も成すことはできない。この世にあるもののほとんどは人間目線で描かれる。欲望や願い、自らのために。そして大切なものが見えなくなる。その傍らにはただ自然の成りゆきを見守っていればいいと佇むものもいたことだろう。産み落とす場所を誤ったのだろうか。それともその場の環境が変わってしまったのだろうか。二つの世界が融合するときは来るのだろうか。悲しみは人影から流れ出す。眼から光が消えるとき、最後の雫は輝いているのだろうか。2022/07/17
masa@レビューお休み中
114
怖いと思ってしまうのは、僕だけだろうか。砂漠の真ん中に突如現れた、大きな大きなひとつのたまご。何のたまごなのか、孵るたまごなのか、ニセモノのたまごなのか、誰にもわからないたまご。それなのに、人間は興味を示す。見るだけでは満足できず、近寄ってしまう。近寄るだけは満足できず、細工を入れてしまう。そこには、好奇心という言葉だけでは言い表せない、人間の果てなく欲望の深さ、業のようなものを感じてしまう。たまごは、そのままそこにあり続けるのだろうか。人間の思うがままにそこにあるだろか…。2016/04/02
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
96
木炭で描かれた文字のないデッサン絵本。何もない大地に産み落とされたたまご。その近くで点のように描かれた人。対比してみるとたまごは、数十階のビルほどの大きさだと分かります。やがてたまごの周りが騒然としてきます。重機で物資が運ばれ、階段が設置され、どこかの国の旗がてっぺんに建てられ……。そこに帰ってきた巨大な親鳥。たまごを抱いて温めどこかに飛び去っていくと、やがてたまごは割れて……。解説では、たまごは《核》の象徴かもしれないと示唆しています。確かに終末感が漂う絵本ですが、いろんな解釈ができそうですね。2015/08/23
kanegon69@凍結中
87
うわっ!これすごいインパクト!木炭で書かれた本作、無言のメッセージが強烈です。これは人間社会への警告と受け取るべきだろうか。巨大なたまごを発見した人間、うじゃうじゃと寄ってたかって利用し始める。そこに現れた巨大な親鳥。人間が慌てふためいて撤退した後に巨大なたまごからヒナが孵る。それを戦車で一斉放火する人間。生まれたばかりのヒナは息絶える。再び現れた巨大な親鳥たちは今度はたくさん巨大なたまごを残していく。人間の描写が小さく緻密、一方巨大鳥の迫力が凄い。人間に対してジロリと睨む巨大な鳥。あっ、私も人間だった、2019/12/14
☆よいこ
74
文字のない絵本。砂漠にひとつ、巨大なたまごがあった。人間がたまごを発見し、しだいにたまごの周りは観光地化していく。砂漠にビルが建ち、たまごにはロープウェイがかけられ、華やかにライトアップされる。ある時、嵐のような風と共に巨大な鳥が現れ人々は蹴散らされる。巨大なたまごから生まれた雛は人間に打ち殺されてしまい、磔にされる。そこに再び親鳥が飛んできて、人間たちをにらむ。▽モノクロのシンプルな線画の中でも、親鳥の怒りの表情が訴えてくる。残されたたくさんのたまごたちはどうなるのか。人間はどうするのか。2019/02/28