内容説明
“い”段がない!?失踪した男と失踪した“文字”をめぐる、前代未聞のミステリー。
著者等紹介
ペレック,ジョルジュ[ペレック,ジョルジュ][Perec,Georges]
1936年、パリに生まれる。1965年、『物の時代』(1965)で、ルノドー賞を受賞。1966年にレーモン・クノー率いる実験文学集団「ウリポ」に加わり、言語遊戯的作品の制作を行なう。主な著作に、メディシス賞を受賞した『人生使用法』(1978。邦訳、水声社、1992)などがある。1982年、パリに没した
塩塚秀一郎[シオツカシュウイチロウ]
1970年、福岡県に生まれる。東京大学教養学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。パリ第三大学博士(文学)。現在、早稲田大学理工学術院准教授。専攻、フランス近現代文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
168
言語実験の本だと思うが、「Eの消滅」の 意味を語った訳者あとがきが 面白い。 ユダヤ民族壊滅計画を 主題とした本らしいが、 アッパー・ボンの失踪から 展開される 世界は 正直 よくわからなかったが… 翻訳の苦労が偲ばれる、そんな作品だった。2018/04/21
ケイ
163
フランス語を真剣に習い始めた時に、語学や文学について話すのが好きだった先生が、よくフランス語でこんなことが出来たなと感動したと言っていた作品がこれ。フランスに行った時に見つけて買ったものの、ややこしそうでいつか読もうとずっと積んでいた。で、今回は日本語訳があるのを知って読んだが、やはり原語で…、少なくともアルファベットを用いる言葉で読まなくてはと痛感した。訳者の熱意を感じる訳文は素晴らしく、大切な事を守りながら面白さも失っていない。しかし原語で読んだ時に解かれる秘密はずっと楽しいはず。来年必ず挑戦したい2017/10/29
まふ
110
リポグラムの作品として有名な小説。フランス語で最も頻繁に使用されている"e"を使わずに書き上げたミステリー。これを訳者は日本語の上2段の「い、き、し、ち、に…」を使わずに翻訳した。これだけで十分に楽しめる。確かに使われていない。ならば、と使わない結果苦しい表現となっているものを探したら、結構ある。「二十年→ハタトセ」「モビーディック→モベーデック」「ヴィンセント→ヴァンセント」等々、苦しそうで面白い。物語そっちのけで読んでしまったので、もう一度読み返す必要がありそうだ。G1000。2023/11/25
NAO
56
解説にあるとおり、この作品は特定の文字を使用しないという制約のもとに書かれているのだ。原文では、最も使用頻度の高い「e」、邦訳ではイ段の文字が一切使われていない。特定の文字を消し去った物語は、消失の物語だ。本当は無ければならないものなのに無い(母音eの不在)ということは、それがあり得ないことである、ということだ。そして、それは、物語の「何かが起こっているようなのに語ることが憚られる事柄」を暗示している。その暗示の中には、ユダヤ人のホロコーストも含まれているという。2023/06/02
傘緑
39
「やや斜めの縦棒がふたつ並んだ図柄が浮かんだ。まるで仮名の『こ』を横転させたようだった…『わん公も歩けば棒へ当たる』のカルタの札が浮かんだ」 「五十音」が「ロハ」になってしまったダダな本。訳者がそんなカンジに身を削ってやっていけるか心配されるかも知れないが、ページ数単位での契約に過剰な改行で対した白々しいデュマの方式です。本を開けば、まるで大切な何かが消え失せたような空白、余白の驚きの白さ。訳者も含め言葉の専門家は言葉尻を捕えたグラマーな曲芸で黒を白にできるのであります。「モベーデックよ!もう文でけんよ」2017/01/15