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内容説明
斬新な仕掛けと驚嘆すべき技巧に満ちた、脱出不可能の8つの迷宮的小説空間。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
たーぼー
68
渋滞解消とともに共同体が瓦解されてゆく寂しさを描いた『南部高速道路』も素晴らしいが、二つの異なった物語が、みるみるうちに溶解し一つになる『すべての火は火』が個人的ベスト。古代ローマ剣闘士の苦痛と、現在のパリのアパートでの男女間のもつれという二つの歪んだ時空が、やがて紅蓮の炎によって一つに肯定化される。この峻厳で無情な芸術に、一般的形象や概念に囚われず、かつ緻密な構成を練るコルタサル世界の象徴をみる。火はいつだって『火』なのである。そこに古代人も現在人も悲劇と陶酔的感情を求める矛盾があることに変わりはない。2017/05/09
藤月はな(灯れ松明の火)
38
やはり、『南部高速道路』は何度、読んでも傑作だと思ってしまいます。『コーラ看護婦』の婀娜っぽいコーラ看護婦の女性特有の強かさとマザコン童貞の坊やの見っとも無い様子との心理戦はコーラ看護婦を応援しながらも徐々に濃くなっていった死の匂いの到達点でもあるラストにしんみりしてしまいます。表題作は苛烈な結末とその結末に対する非日常でもある日常の一コマの落差に呆然としてしまいました。2013/09/29
ドン•マルロー
36
傑作として名高い「南部高速道路」が収録された短編集。時系列でいうと長編「石蹴り遊び」の次に上梓されたということからも、最も脂がのった時期のコルタサルの作品群であると言えるかもしれない。溢れんばかりの才気と、幻想と現実の混淆するコルタサルワールドを存分に堪能できる一冊だ。南部高速道路を除けば、もっとも気に入ったのは「病人たちの健康」である。他の著作に比べればずいぶん直線的な作品であるが、この時期のコルタサルは微妙な心の機微を描くのが抜群に上手く、これがなかなかどうして情味あふれる作品に仕上がっているのだ。2016/04/09
拓也 ◆mOrYeBoQbw
27
幻想短篇集。コルタサル中期の傑作短篇集。最も筆が乗った時期の作品ともいわれており、相変わらずの現実に入り込む悪夢、更にリアリズム描写の上手さが光ります。白眉は表題作の『すべての火は火』。アイディアとしては思い浮かんでも、そのハードルの高さから誰も描こうとは思わない幻想短篇です。恐怖感や奇妙な味わいと共に、コルタサルの罠に気持ちよく騙される、短篇好きにはぜひ読んで貰いたいお勧めの一冊ですね(・ω・)ノシ2017/08/09
アドソ
16
旅先の書店で偶然発見。まさか手に入るとは。既読も多かったけど、あちら側とこちら側がするりと入れ替わる快感は期待通り。「病人たちの健康」-嘘に嘘を重ねて自分の嘘に飲まれる。嘘の壮大さこそ違えど、こういうことあるよなあ。「正午の島」-今回の読みでやっと意味がわかり震撼。「すべての火は火」-小道具に電話を使っているところが不気味さを増す。昔の電話って混線もあってちょっと怖かった。「もう一つの空」-解説を読んで己の読みの浅さを思い知る。また今度再読しよう。2016/08/28