内容説明
ニュー・クリティシズムに始まる近代の英米文学批評を集大成した「シカゴ学派」の巨頭による本書は、小説理論の古典的名著としてN・フライの『批評の解剖』とともに多数の読者に読み継がれてきた。著者は、読者とコミュニケーションを取り結ぶ「公の筆記者」として現実の作者と位相を異にする〈内在する作者〉の概念を導入する。〈内在する作者〉による読者の説得の技法、すなわち〈修辞法〉を議論の中心に据え、古今東西の作品を博引旁証しつつ、あらゆるフィクションがもつ〈技法〉を明解に記述しつくしてみせる。
目次
第1部 芸術的純粋さとフィクションの修辞学(語ることと示すこと;一般原則;語りの諸類型)
第2部 フィクションにおける作者 声(信頼できる論評の様々な用法;示すこととしての語り;ジェイン・オースティンの『エマ』における距離の操作)
第3部 非個人的語り(作者の沈黙の様々な用法;非個人的な語りの代償;非個人的語りの道徳的問題)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
緑虫
2
★★★★ 作者による論評を完全に廃した客観的な記述はありえない。全てのフィクションに対して適用されるべき一般則は存在しない。また、ある作品の美徳は別の作品にも求められるものであるとは必ずしも言えない。内在する作者(=伝記的要素を剥ぎ取られた作者)の伝えるものと仮定された読者が読み取るものの一致を巡って、作者がどのような技巧を凝らしたかこそ論じられるべき(ただし、内在する作者=仮定された読者になるべきということではなく、意図して曖昧な記載がなされた作品が否定されるというものではない)。2018/02/12
Lieu
0
大層分厚く、特に後半は例が矢継ぎ早に出されるため理解するのもやっとだが、前半に、フィクションから作者の存在を示すものを排除することへの批判と、テクストから浮かび上がる「内在する作者」について重要なことが書かれている。フィクションの中で、この視点が選び取られた、というそのことに、また、あるエピソードが別の位置でもよかったはずなのにこの位置で語られているというそのことに、我々は作者の存在を意識する。2021/11/19
ささらもさら
0
図書館本。じっくり読めなかったし理解も浅いまま終わってしまったので、またいつか、今度は購入して再チャレンジしようと思います。信用できない語り手の問題、修辞的に作者が介入することの問題その他、小説の技法的問題が緻密に論じられています。すごく面白いですが、例示されるテキストをほとんど読んでいないのでピンとこない面もありました。「エマ」「インドへの道」「ロリータ」「ポヴァリー夫人」とか気になります。2021/09/23