内容説明
殺人現場を目撃したことを誰にも信じてもらえない少年の孤軍奮闘ぶりをサスペンスフルに描く表題作など、ウールリッチ=アイリッシュの名訳者が遺した傑作7篇。
著者等紹介
ウールリッチ,コーネル[ウールリッチ,コーネル][Woolrich,Cornell]
1903年12月4日ニューヨークに生まれ、1968年9月25日ニューヨークのホテルで死す。64年の生涯に227の中短篇を書いた短篇の名手だが、長篇ミステリも1940年の『黒衣の花嫁』以後18作発表、特にウイリアム・アイリッシュ名義の『幻の女』『暁の死線』でサスペンスの巨匠としての名声を博した。映画化やTVドラマ化された作品も数多い
稲葉明雄[イナバアキオ]
1934年2月1日大阪に生まれ、1999年3月17日東京に死す。早稲田大学仏文科中退
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
26
実は本当の事なのにどうしてわかってくれないんだ。 そんな悔しい思いをしたのは表題作の主人公の少年。彼にとって不運だったのはいつも作り話をしていた事。だから彼が「殺人を見た」と真実を言っても今までの数限り無い嘘の中に紛れてしまった。あの羊飼いの少年が、最後に言った「狼が来た」が、今までの嘘と同じように受け止められてしまったように。 羊飼いの言った事が本当だと知っていたのは、やって来た狼だけ。少年の言う事が本当だと知っていたのも、当の犯人だけ。 少年が狼に追われたように、犯人もまた、少年を狙ってやって来る。 2003/09/01
藤月はな(灯れ松明の火)
21
「天使」は美貌の姉が弟の無罪を晴らすために孤軍奮闘する話。刑事が気丈な姉が見せた弱さに一気に惚れるのはロマンス小説ならでは。「さらば、ニューヨーク」は崖っぷちに追い込まされた若い夫婦が疑心暗鬼に苛まれ行き場を失くしていく未来を暗示する心理描写に胸が苦しくなります。「ぎろちん」は最後の衝撃過ぎる場面が夢に出てきそうです・・・・・。「眼」は介護人の青年と目で真実を伝えようとする老婆のやり取りにいつ、読んでも「頑張れ!」と応援したくなります。表題作は犯罪現場を目撃した嘘つき少年が中々、信じて貰えないのがハラハラ2013/01/15
くさてる
16
代表作の長編を読んだことはあるけれど、短編集は初めて。どれもレベルが高く、面白かった。思っていたよりもずっとサスペンスフルで、暴力的で、ある意味で典型的な犯罪話なんだけど、そこに登場する人物描写がいい。典型的な悪女も、愛する男のために間違いを犯す女も、気高い女も、無邪気な少年も、善人の心を忘れずにいた男も、登場人物がみなリアルで、だからこそやるせない読後感が残った。良かったです。2018/12/08
硯浦由咲
2
「ウールリッチ以上にウールリッチ的」な稲葉訳。それって翻訳の域を越えてんじゃ……と思うけど、アイリッシュの「幻の女」の書き出しは何の作品か知らないまま何度も目にしていて「かっこいいなぁ」と思っていたので、日本語でアイリッシュ/ウールリッチを読めることを幸せに思おうと思う。ほんとに美味しい文章です。2016/06/10
球
1
門野氏の文も悪くはなかったが(少なからず意識されていた部分もあったと思う)、稲葉明雄の文体に格別のものを感じてしまう。もうすでに翻訳というフィルターを通してウールリッチ作品という枠から離れてしまっているのかもしれない。結局のところは原典をあたるしか方法はないのだと思い知らされる。