出版社内容情報
都会に蝟集する現代中国の浮浪者たち。日々増え続ける彼らは、何故、家、故郷を出たのか。いかに生き、何を訴えているのか? うごめく”阿Q”世界に身を挺し、初めてその実態を赤裸々に解剖した渾身のドキュメンタリー。
家ある者は家を出て
家なき者は家探す
兄さん姐さん ともに手を組み
天下の飯拾いは みな家族
(山東省一帯に流行)
この手は生きた 福の神
手招きすれば お金やってくる
厚顔無恥とて 恐れはしない
皮が薄けりゃ 生きられぬ
(湖南省一帯に流行)
序文
第一部 奇妙な浮浪者部落
一 ″ラツ″の奇遇
新参者/奇怪な隠語/ヒエラルキーの王国
二 王国の内幕
謎のナンバー″0″号/部落の征戦/統治の秘密
三 寄る辺なき旅
無賃乗車の″飛虎隊員″/施の″記念″/支離滅裂な″風景″
四 乞食の鍵
文字″広告″/動く″銀の箱″/お宝の″招来″/働いて″臨時収入″を得る/子供の″貸出し″
五 野蛮な生活
間抜け型/山サソリ型/海賊カモメ型/田鼠型
第二部 さ迷える女性たち
一 女乞食、一つの謎
二 大海の小船
やみくもの家出/すさまじい生活/いまわしい病/のろうべき輪
三 天使か悪魔か
言葉たくみに騙す術/″微笑″の特技/″涙″の罠/″ル美しさ″の誘惑
四 零落
九歳の歌い女、小芹/赤い服の少女小L/営南県出身の強情娘YL/広西出身の娘、 慮××/広 州出身の女子学生、阿Y/″四弁の金の花びら″の母、孫艶/男装の″小香子″/ゴミ事を押す 老婆、劉五香
五 傷痕
一五七人の唾/犯された者の心/六日間絶食の滋味/死の淵の感覚/収容所の印象
六 良知の光
″小観音″/女剣はいかにして″スクラップ大王″になったか/彼はいかにして
″列車魔″となったか
三 現実と憂慮
″盲流″の悪循環/乞食の若年化傾向/乞食のなかの党章所持者/
″単純な″同情や憐憫は″犯罪″と大差ない
第六部 乞食と交渉を結ぶ者たち
一 夢遊病者と覚醒者
飴と苔/野狐と闘う鷹/科学的人相術
二 釣り人と釣られ人
″身は曹営にあれど心は漢朝にあり″/″孫悟空、鉄扇公主の腹に
潜りこむ″/″犬が犬を咬んで鬼現わる″
三 収容者と逃亡者
″網を打″てば、″変装″する/取り調べとごまかしと/賀風林の場
合/韓風根の場合/藩維夫の場合
第七部 新生活に向かう人びと
〃放蕩息子″改心して新妻を操る/″騙り″が″鉄牛″を操る/″不正収
入の神様″″まっとうな道″につく/″迷い蝶″闇より脱す
エピローグ
1991.11月号
南雲 智「波」新潮社
今や日本では「貧乏」という言葉が死語になりつつある。そんな日本の社会で生きる浮浪者たちには、世界中でもっとも糖尿病が多いという統計さえあるらしい。彼らこそは、最大の自由人だと言えるかもしれない。
だが、これは日本の浮浪者事情で、中国ではそうはいかないようだ。『阿Qの王国-中国浮浪者列伝』(中国語原題『中国的乞丐群落』劉漢太著・岡田陽一訳、革風館刊)は、それを教えてくれる。
突撃インタビュー形式で再現した彼らの声は、小説より数倍も迫力がある。とにかく圧倒された。社会主義を理想としてきた中国に、1985年現在、100万人以上もの浮浪者が存在しているというのだ。
こうした人々のすべてが、帰るべき家を持たないわけではないし、放浪生活を始めた一原因も貧困だけではない。閉塞した農村から幻影を求めて都市に流入してくる者、姑との仲がうまくゆかず、婚家から飛び出した嫁、両親の過大な期待に耐えきれなかった少年、共産党員の男など……とにかく自由への逃避者が結構多い。だからこそ収容所に入れられるのを極端に恐れる。
彼らは生きるために、大道芸人顔負けのテクニックと小道具を駆使して、に選んだ放浪の旅路ではなかったろうか。