内容説明
いまは忘れられた、ドイツ語を日本語の語順でならべて助詞などでつなげた「てにはドイツ語」とは、ドイツ語で医学教育がおこなわれるという、きわめて特殊で限定的な場で発生し、流通した言語変種といえる。「てにはドイツ語」による教科書も出されている。この言語変種をめぐって、日本医学界ではいかなる議論がなされたのか。「医学のナショナライズ」「ナショナリズムの医学」「日本医学」「大東亜医学」、敗戦後の「アメリカ医学」=アメリカ英語への転換、それは、近代日本語のあり方のみならず、学知のあり方までをもうかびあがらせるものである。日本医学と「言語的事大主義」。
目次
序章 近代日本と「てにはドイツ語」
第1章 「てにはドイツ語」の発生
第2章 問題化する「てにはドイツ語」とエスペラント―一九一〇年代後半における医学界の言語問題
第3章 浸透する「てにはドイツ語」
第4章 再問題化する「てにはドイツ語」―一九三〇年代から一九四〇年まで
第5章 医学用語統一への道と医師試験用語問題
第6章 「大東亜共栄圏」のなかの「てにはドイツ語」
終章 「てにはドイツ語」の終焉―ドイツ語から英語へ
著者等紹介
安田敏朗[ヤスダトシアキ]
1968年神奈川県生まれ。1991年東京大学文学部国語学科卒業。1996年東京大学大学院総合文化研究科博士課程学位取得修了。博士(学術)。現在一橋大学大学院言語社会研究科教員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アメヲトコ
7
2021年刊。『日本漢字全史』を読んでいたら、以前この本を読みたいと思っていたことを思い出して手に取りました。近代日本の医学界には、ドイツ語の単語を助詞と接続詞でつなぎ、日本語の語順に従って読む「てにはドイツ語」なるものがあり、本書ではその誕生から批判、終焉までが論じられます。「てにはドイツ語」はドイツ第一の権威主義である一方で、その批判としての日本語医学教育主義もまた戦前の国粋主義思想と無縁でなかったわけで、言語の問題を通して医学界にある事大主義に迫る一冊です。エスペラントも出てくるのが興味深いところ。2024/12/18