内容説明
喧嘩じゃ勝てない、得意な科目なんてない、将来やりたいことも、別にない…どうしようもなく流されて生きるやせっぽっちの少年、ビリー。彼のまなざしは「ケス」と名づけた鷹とともに空高く―。名匠ケン・ローチ監督の最高傑作『ケス』―イギリス版「大人は判ってくれない」の原作、本邦初訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
294
少年と鷹との交情を描くヒューマン・ストーリー、あるいは鷹との共生を通じて成長するビルドゥングス=ロマン。タイトルからは、そうした物語を想像するが、そのいずれでもない。主人公ビリーは、読み書きも計算も苦手でスポーツもさっぱり。そんな彼が唯一得意なのは、誰にもできない鷹の飼育と訓練だった。彼は鷹の絶対に馴致しない孤高の姿を自己と対置させていたのだろう。物語は、ビリーが朝起きてから夜までの一日を描く。そして、その背後にはヨークシャーの炭鉱地帯で、低所得の労働に従事する、労働階級の者たちの姿が垣間見えるのである。2016/03/19
まふ
121
素晴らしい作品に出会った。英国ヨークシャ―の炭鉱町に住む娼婦の母親および父違いの兄ジュドと住む15歳の少年ビリーが丹精込めて飼育したチョウゲンボウ(ハヤブサの一種)ケスとの夢のような生活。だが、無理解なジュドの仕打ちでケスは悲しい運命をたどる・・・。読者はビリーの健気な生き方に心を洗われ、ジュドの投げやりな生き方に腹も立つ。が、学校の教師や生徒たちとのふれあいなどが生き生きと描かれており「作品全体が生きている」ような気がして年甲斐もなく感情移入状態となってしまった(不覚)。G1000 。2023/07/05
扉のこちら側
94
2016年387冊め。【188/G1000】ケスとは少年の飼う鷹の名前。少年が鷹との交流を得て成長していく、という話を想像していたが違った。方向性としてはその想像は間違ってはいないのだけれど、「そういう話だ」と言い切ってしまうことはできない。むしろ英国社会の一片を切り取った話だとも言える。印象的なのは、勉強も運動も苦手で教師からも雑に扱われる少年(十五歳という割には随分言動が幼く、12・13歳くらいかと思っていた)が、鷹の捕獲から飼育、訓練について授業の中で話すシーン。2016/06/09
アナーキー靴下
93
以前知人から映画のあらすじを聞き、何となく気になっていたが、原作の存在を知り読んでみた。英国の炭鉱地帯で暮らす貧しい少年ビリー、彼のある一日を切り取った物語である。中盤、授業で語られる事実と虚構、これは本作品のテーマであろうが、「実際に起きたことの話だから事実」という至極当然の定義は、ビリーの立ち返る現実を思えば、事実のはずのケスはまるで虚構と、示唆に満ちている。しかしデフォルメされた印象はないのに唐突にテーマが挿入されるのは強引に感じるし、逆にこの展開をありのままに受け入れるなら、こんな教師は大嫌いだ。2022/01/26
どんぐり
79
ケン・ローチ監督の映画『ケス』(1969)の原作。著者のバリー・ハインズは、この監督が描くイギリスの労働者階級や貧困をテーマとした映画の脚本をいくつか書いている。小説の舞台は、1960年代の北イングランドの炭鉱のある町。主人公は、母子家庭で炭坑労働者の粗暴な兄と共に暮らす少年ビリー。中学卒業を間近に控え、学業が振るわず、卒業後の進路は炭坑労働者になるしかない。前途に希望を見出せないなかで、森の中で鳥の巣から雛を見つけて、「ケス」という名前を付けて鷹の調教を始める。→2025/04/30