内容説明
カルカッタ/ロンドン/ダッカ三つの都市、三つの世代を引き裂き結びあわせる歴史、暴力、沈黙、そして記憶。21世紀英語文学の旗手ゴーシュが繊細に描か出したインド社会の深層。
著者等紹介
ゴーシュ,アミタヴ[ゴーシュ,アミタヴ][Ghosh,Amitav]
1956年カルカッタ(現コルカタ)に生まれる。デリー大学、英オックスフォード大学で歴史学、社会人類学などを学び、博士号取得。インド、アメリカなど各地で研究、教育活動を続け、99年以降米ニューヨーク市立大学で比較文学の教鞭をとる。小説、エッセー、ノンフィクションなど多彩な分野で著作活動を展開し、現代インドを代表する作家、知識人として高い評価を得ている
井坂理穂[イサカリホ]
1969年生まれ。東京大学教養学部卒業、英ケンブリッジ大学博士号取得。現・東京大学大学院総合文化研究科助教授、研究分野は南アジア近現代史
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感想・レビュー
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てれまこし
3
1984年に起きたヒンズー教徒によるシーク教徒虐殺事件に衝撃を受けて書かれたらしい。著者はグローバルに活躍する知識人で、母国のコミュナルな暴力に対する視線は部外者のわれらとそう違わない。誰かが地図上に国境を画くと、全く縁のなかったものが身内になり、故郷が外国になり隣に住む者が他者となる。そこに不条理を感じる。ただ、ナショナリストであった祖母を通じて過去の遺産とも接しており、そうした遺産をすべて投げ捨てようとするいとこには違和感を感じる。宙づりであるが、それが想像力を駆使して境界線を越えることを可能とする。2019/08/26
retro
2
「僕」が語るのは、あくまでもある家族とそれを取巻く人々の物語なのです。僕の思い出すままの記憶の断片がつなぎ合わされて、一族の肖像が描かれていきます。ダッカで祖母が住んでいた家を真ん中で分断する壁。生まれ故郷のダッカになかなか帰れない祖母。自由を求めて葛藤するイラ。パキスタンからの難民とパキスタンへの難民。そうしたいくつものエピソードは、国境、宗教、社会、個人などに無数に存在する、目に見えない境界線(シャドウ・ライン)、それと同時にいくら引いても見えなくなってしまう境界線をあらわしているようです。 2007/12/16