内容説明
キューバをめぐる二つの詩学―キューバは世界史上の磁場であり、特別な存在である、ゆえにこの島は「重い」。―キューバは曖昧で不明瞭な存在だ、言わばこの島には「重さがない」。自らのアイデンティティを自明視する「肯定の詩学」と、それを疑う「否定の詩学」。相反する二つの詩学を両輪に走り続けてきたキューバの文学を複眼的な視線で追う。
目次
キューバ、「肯定の詩学」と「否定の詩学」
第1部 ピニェーラとアレナス(断片の世界―ビルヒリオ・ピニェーラを読む;ブエノスアイレスのビルヒリオ・ピニェーラ;革命とゴキブリ―作家レイナルド・アレナス前夜)
第2部 革命と知識人たち(騒々しい過去と向き合うこと―ラファエル・ロハス『安眠できぬ死者たち‐キューバ知識人の革命、離反、亡命』をめぐって;『低開発の記憶』にみるエドムンド・デスノエスの苦悩;亡命地としてのアルゼンチン―アントニオ・ホセ・ポンテとカリブ文学研究をめぐって)
第3部 冷戦後のキューバ文学(「革命文学」のゆくえ;ポストソ連時代のキューバ文学を読む―キューバはソ連をどう描いたか?;反マッコンド文学―二十一世紀キューバにおける第三世界文学とダビー・トスカーナ『天啓を受けた勇者たち』)
著者等紹介
久野量一[クノリョウイチ]
1967年生まれ。東京外国語大学地域文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。東京外国語大学准教授。専攻はラテンアメリカ文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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スミス市松
15
ラテンアメリカ文学でも特にキューバ関係に造詣が深い著者の論文集。革命後に顕在化した「肯定の詩学(レサマ=リマ、ギジェン、カルペンティエル等、キューバへの愛着と信頼に基づく進歩・統一的詩学)」と「否定の詩学(ピニェーラ、パディーリャ、アレナス等、キューバへの幻滅と失望に基づく停滞・拡散的詩学)」という対立概念を出発点に様々な作家を紹介することで、冷戦後そしてカストロ崩壊後の新しいキューバ文学の風景を描き出していく。英仏語圏カリブ文学との共鳴やソ連時代のノスタルジーを投影した作品群の分析は殊に興味深く読んだ。2018/09/08
三柴ゆよし
13
ビルヒリオ・ピニェーラの短篇論がとにかくアツい。とはいえピニェーラの本格的な翻訳は、昨年、ようやく紹介された長篇『圧力とダイアモンド』だけ、というお寒い状況。ピニェーラの本領はやはり詩と短篇と推察されるので、まずは短篇集を一冊、できることなら久野量一の翻訳で読んでみたいところ。他にアルゼンチン文壇とゴンブローヴィッチ『フェルディドゥルケ』をめぐる論考、新しいラテンアメリカ文学(マッコンド)についての小論が特に印象深かった。今後、自分のなかで、文学における「島性」という部分がひとつの鍵詞になるかもしれない。2018/09/10