内容説明
日常的現実のひとこまから奇想の世界が現出する。リアルかつ奇妙なイメージに快く翻弄されるうち、存在論的・認識論的な問題にまで思考は駆動されるだろう。近年、世界が「再発見」した異能の作家の短篇集。
著者等紹介
クルジジャノフスキイ,シギズムンド・ドミニコヴィチ[クルジジャノフスキイ,シギズムンドドミニコヴィチ][Кржижановский,Сигизмунд Доминикович]
1887‐1950。ウクライナのポーランド貴族の家庭に生まれる。キエフ大学法学部に在学中から詩やエッセーを発表。大学卒業後は弁護士助手として働くが、1917年のロシア革命で裁判制度が変わったあおりをうけて失業。以後、音楽院・演劇スタジオなどで講師として文学・演劇・音楽などの歴史と理論を教えて生活の糧を得た。1919年、短篇「ヤコービと“あたかも”」を発表して作家デビュー。活動の舞台をキエフから新首都モスクワへ移し、小説・エッセー・評論のみならず、舞台・映画シナリオ等の多岐のジャンルに渡って創作を展開。200を越える作品を残した
上田洋子[ウエダヨウコ]
早稲田大学大学院文学研究科修了。専攻はロシア文学。現在、早稲田大学非常勤講師、専修大学兼任講師
秋草俊一郎[アキクサシュンイチロウ]
東京大学大学院人文社会系研究科修了。専攻は比較文学、ロシア文学など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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三柴ゆよし
24
ロシアのいわゆる<忘れられた作家>の作品集。表題作「瞳孔の中」では、恋人の瞳孔に住まう小人(瞳孔人)によって恋愛の心理を語り、巻頭に置かれた「クヴァドラトゥリン」では、部屋を拡張する薬を手に入れた男の悲劇を描く。グロテスクな奇想と哲学的な思索を二本柱とした作品がメインで、カフカやボルヘスが好きなら楽しめるのではないか。いちばんのお気に入りは「噛めない肘」(実現不可能なことを指す慣用句)。タイトル通り、自分の肘と格闘する狂人に端を発するスラップスティックな小品。こういうのをさりげなく出すから松籟社はすごい。2012/09/08
かわうそ
16
今読んでも新鮮に感じられる奇想の数々はとても1920年代に書かれたとは思えない。不思議なアイデアを中心にしつつ、幻想だけでなく下世話な話あり笑いありとバラエティ豊か。特にラストの「噛めない肘」はシュールすぎて爆笑必至。面白い!2013/11/04
きゅー
12
短篇集。物語の硬軟の振りが大きく、すらすらと筋を追えるものと、じっくり読まないと内容が理解できないものとに分かれていた。どの作品も不思議なアイデアが物語の主軸となっていて、読んでいる最中の奇妙な感覚は独特なもの。「瞳孔の中」は、恋人の瞳に映る自分の姿が意志を持って動き出すという物語。恋愛の機微が擬人化された姿で描かれる佳品。ふわりふわりと夢心地のような物語だけれど、ストンと落ちるべきところに落ち着いた。変な浮遊感があるけれど、実は重苦しいテーマが隠れており、強いて言うなら騙されたという気持ちだろうか。2012/12/20
donut
10
冒頭こそワンアイデアの奇想小説のような雰囲気だが、途中から哲学や文学を巡る難解な議論が展開されていく作品が多く、正直ついていけないところもしばしば。それでも巧妙な比喩表現や熱に浮かされたように饒舌な登場人物の魅力のおかげで最後まで読めてしまう。解説によると作品を朗読で発表していた影響で読者へ呼びかけるような文体になったらしく、それも新鮮だった。「嚙めない肘」は最初のアイデアから事態が論理的に展開して話が膨らんでいく感じがコルタサルぽくて好き。「しおり」の作中作はどれも好き。2020/10/17
ヴィオラ
10
良くも悪くも、ロシアっぽいなぁ( ̄ω ̄;)奇想な部分が目立つので、こりゃ面白い!と思って読んでると、いつのまにやら自分が何を読んでるか分からなくなっている迷子状態に…。哲学的なネタが色々仕込んであって、こりゃ気を引き締めて読まねば!と気合をいれたとたんに、「噛めない肘」みたいな話でずっこける…みたいな(´▽`) 個人的には「しおり」の中の作中作が結構ツボ(>▽<)b 中でも「法事」は良い話だなぁ。2012/10/05