感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
54
結局ウルリヒの試みは、近代以来、理性を重んじてきた世界が直面した逆説、理性によっても人は「無数の意見」を調和できず「権力(暴力)行為」に終始するのはなぜかという疑問の答えを探す冒険だったように思います。またそれは、人は「何のために生きているのか」という問い、神がいた時代には容易に見出せ、神のない現代に見失ってしまった答えを探す試みでもあったように思います。未完の本書に答えはないのですが、恐らく答えのないこの問いについて考えるために、ムージルの皮肉で美しいポエジーに触れる意義は十分にあるように思いました。2020/08/26
NAO
49
『特性のない男』は未完であるため、6巻は出版前の草稿と、Sテキスト(『特性のない男』となる以前の草稿集)からなる。最後まで読んでも、特性のない男ウルリヒを、作者はどういう存在として位置付けたいと考えているのか、全く分からなかった。全体の印象は、小説というよりはかなり難解な哲学書。しかも、何度も書いたが、あまり共感もできない。ちなみに、話の中で中途半端な形で立ち消えになった平行運動だが、1914年にサラエボ事件が起こり世情が戦争へと傾いて行ったため、実際にも、皇帝在位70周年の祝賀行事は行われてはいない。2016/08/01
かんやん
27
この世から立ち去る者が、その前に立ち止まり、もう一度視線を投げかける。微塵の感傷も未練もなく。そんな視界に映じた偶然と凡庸と蓋然性に支配された世界。「分けられないが、一つにできない」兄妹で交わされる愛に関する対話。そして、絶筆「夏の日の息吹」へ。一千年が瞬き一つの間に過ぎ、空間ももはや定かではなくなる時。「そこにいるのはあなたなの、それともあなたではないのかしら? 自分がどこにいるのかわからないし、それを知りたいとも思わない」束の間の空しい存在がぎりぎり到達できる最果てに「千年王国」はあるのかもしれない。2019/04/13
イタロー
2
Sテキストを読。読んでよかった。異常な展開で面白い。2023/09/21
イタロー
1
『特性のない男』との長い付き合いにひとつの区切りがついた。付録は後で読む。前評判と違って、実際に読んでみると、ここに織り込まれている思索と感情の束は、明らかに、哲学でも、学問でも、宗教でもない。これはエッセイ、小説、文学、そういうものである。あえてジャンルづけをしようとするならだが。そして未完のこの作品の、絶筆にいたるまでの兄妹の冒険の過程を見ると、不思議なことに物足りなさを感じないのだ。むしろ真の意味でこちらに何かを書きたくさせるような、静かで美しい情景が広がっている。さて、あの皮肉げな冒頭へまた……。2023/06/12
-
- 和書
- 九重の四季