内容説明
この地球上には七〇〇〇もの言語があって、複数の言語を使って生きている人がたくさんいる。一つのことば―たとえば日本語―だけで生きていくという前提をゆさぶってみる。境界こそが育む豊かさを見つめてみる。そこからは、他者とともによりよく生きていくためのヒントが見つかるかもしれない。
目次
第1章 夢を話せない―言語の数が減るということ
第2章 夜のパピヨン―言語の数が増えるということ
第3章 移民と戦争の記憶―ことばが海を渡る
第4章 ペレヒルと言ってみろ―「隔てる」ものとしてのことば
第5章 「あいだ」に、いる―言語の交差域への誘い
第6章 彼を取り巻く世界は、ほとんど無に近いくらいに縮んでしまった―ことばの断絶と孤独
第7章 「伝わらない」不自由さと豊かさ―複数の言語で生きるという現実
第8章 内戦下、日本語とともに生きる―ことばを学ぶ意味
第9章 「韓国語は忘れました」―人にとって母語とは何か
第10章 こうもりは裏切り者か?―他者のことばを使う
終章 複数の言語で生き死にするということ―人間性の回復をめざして
著者等紹介
山本冴里[ヤマモトサエリ]
1979年千葉県生まれ。日本およびフランスの教育機関を経て、現在、山口大学教員。専門は日本語教育学・複言語教育で、特に興味のある概念は「境界」と「周縁」(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
72
自分が使用する言語はアイデンティティーと分かちがたく結びついている。日本に住んでいて日本語を母語としている大多数のひとが普段意識しないことだろう。けれどこの世界には話す言葉、書く言葉によって差別されているひとたちがたくさんいる。呼吸をするたびに苦しんでいるひとたち。それに対して自分はなんと無神経だったか、本書を読んでほんの少し実感できるようになった。2022/06/05
livre_film2020
40
言語に携わる者として唸らされるエピソードが多々収録されている。我々は何の為に言語を学び、自己をどのように表現するのか。日本で生まれ育ち、当然のように日本語の次は英語を習得した私にとって想像を絶する人生を歩む人々がこの世界には大勢いる。言語と政治は切り離すことができず、また生活や思い出とも切り離すことができない。この言語はこの為にあると言い切ることはできず、それ故に不要だとも言えない。言語とは二次元的なものではなく、三次元的なもの。そういう考えが伝播すれば、もっと生きやすくなるかもしれない。 2022/04/24
black_black
18
世界には7000以上の言語があるという。歴史の中で強い言語に駆逐されてしまった少数派の言語の話、戦時中における踏み絵としての言語(発音)利用の話、国語教育の下、標準語ではない言葉を話すことに対する恥の概念の話など、言語をめぐるエピソードと考察をまとめた1冊。身近であるがゆえにほぼ無意識に使っている言語の暴力性や奥深さといった影響力の大きさを強く感じる内容だった。2023/04/17
kuukazoo
17
日常のあらゆる場所で日本語が通じ、翻訳のおかげで外国語の本も日本語でたくさん読める環境に慣れきっているので、この本にあるように言語が絶滅してしまうとか3世代で話す言語が違うために親子は意志疎通できても祖父母と孫はできないとか植民地化によって支配側の言語を強制されるとか言語が踏み絵になってしまうとか多くの困難があることに言葉を失う。一方で違う言語を話す同士であってもコミュニケーションを重ねる中で言語が混ざりあい新しい言語が生成するプロセスの柔軟さに驚く。たった1人になっても人は言葉と共に生きるのだなと思う。2023/12/26
Nobu A
12
タイトルに惹かれ新刊購入。言葉を通して思考しコミュニケーションを取る我々にとって「ことば」とは何か。様々な言語が行き交う世界に生きる私達に帰属意識を植え付け、大言語・小言語の関係性、道具的価値等が絡む中、重層的な関係性が形成され、同時に自己変容も起きている。言語を学ぶ意味を考えさせられる。陳腐な表現しか出来ないが、執筆者のエピソードが説得力を増す。いや、それこそが言語活動の意義であることを物語る。ただ、他言語を学ぶと母語に影響を及ぼすのは必然。その点にも触れて欲しかった。「夜のパピヨン」で僅かにあるが。2022/10/29