内容説明
チベット難民の「生」は苦悩か、希望か。1960年代、ダライ・ラマの亡命にともない北インドに生まれたチベット難民社会。その不確実性を承知で越境する人々は、21世紀になっても後を絶たない。「インドでの生活は時には苦しみ、時には失望するけど、時には希望に溢れる」というチベット難民の新世代・サンジョルたちの生活実践を活写する。
目次
序章 「難民」を生き抜くために
第1章 インドにおけるチベット難民とダラムサラ―調査地概要
第2章 「ダラムサラ・インターナショナル・エアポート」―移動に託す希望
第3章 つながりを作る―地域という集団範疇と共同性
第4章 負債のネットワーク―電子貨幣クマルを介したつながり
第5章 偶然を資源化する―賭け続ける経済活動
終章
著者等紹介
片雪蘭[ピョンソラン]
1985年韓国水原市生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。専攻は、文化人類学、南アジア研究、難民研究。現在、関西学院大学先端社会研究所専任研究員、国立民族学博物館外来研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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sayan
31
学術書とは到底思えない刺激的な内容とスピーディな展開に非常に質の良い社会派小説を手にした気分。インド/中国で生活するチベット難民に焦点をあてる。彼らの脆弱性を否定し自立と依存のバランスで成立する共同性の描写は興味深い。特筆すべきは、彼らの一見すると行き当たりばったりで、お互いの関連性がない行動を、不確実な世界に生きる術として「いつか何かの役に立つかもしれない」世界観(=共同性)として再構築する箇所。ただし、その共同性や関連性は刹那的で、その描写は、読み物として読者を本書にひきつける大きな魅力となっている。2020/10/19
BLACK無糖好き
24
北インド・ダラムサラにおけるチベット難民の人類学的研究の成果物。当地のチベット難民は、1960年代からインドへ越境しチベット難民社会の基盤を築いてきたシチャと呼ばれる人たちと、1980年代以降越境してきたサンジョルと呼ばれる人たちがいるようだ。この二つの集団の関係性はあまり良くない。後者は一人で越境してきた者が殆どで難民社会からも歓迎されていない模様。本書はこのような状況にあるサンジョルの人たちの実態に迫り、人的ネットワーク構築の術やその生存戦略を解明する。これぞフィールドワークの賜物。2021/05/27
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