内容説明
殻、空、虚、骸…あれは都市の、この世の、崩壊の音。富士が裂けた。電線のカラスが道にボトボト落下した。雨みたいにばらばらと人の死が降った。生き残った者は、ツルツルの肌を持つあのひとたちに奉仕した。パンデミック後の光景、時の層を描く小説7篇。
著者等紹介
小池昌代[コイケマサヨ]
詩人、小説家。昭和34年(1959)、東京深川生まれ。津田塾大学卒。詩集に『永遠に来ないバス』(現代詩花椿賞)、『もっとも官能的な部屋』(高見順賞)、『ババ、バサラ、サラバ』(小野十三郎賞)、『コルカタ』(萩原朔太郎賞)等。小説集に『タタド』(表題作で川端康成文学賞)、『たまもの』(泉鏡花賞)等。エッセイ集に『屋上への誘惑』(講談社エッセイ賞)等(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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pohcho
61
がらがら、がらがら、かきがら、がらがら。牡蠣の殻が落下する音は、この世の崩壊の予兆音?(詩人の発想力がすごい)どこか白昼夢のような日常の風景に滅亡の予感を滲ませながら、それでも人々はのどかに暮らしている。「必ず、わたしたちはたどりつける。いまよりよき場所へ。いまだかつて、わたしたちがとったことのない方法をもって。」ディストピア感が強いけど、ほんのりとした希望も感じられる短編集だった。「聖毛女」「古代海岸」がよかった。大皿に山盛りの牡蠣フライも食べたくなる。2021/03/16
みねたか@
32
7編の短編。独立しながら、様々な共通項を拠り所に、それぞれが触手を伸ばし結びついた不思議な魅力。そして、作者がこれまで描いてきた大人の男女の淫靡な妖しい世界のみならず、高校生を描いた青春小説のような味わいの「地面の下を深く流れる川」や、詩情にあふれるファンタジー「聖毛女」など、作品の幅も広く、改めて小説家としての力量に感嘆。独特の句読点の使い方から生まれる「間」が絶妙で、何かほの暗い場所に吸い込まれるような魅力を湛える。2021/03/17
tom
16
小池昌代さんの書くものは、私にはけっこうな好み。アイロンがけを専門にする男。小さなくりぬき舟を作ることを職業にする男、何やら不気味で、突き詰めた雰囲気、どこか惹かれてサラサラと読む。うまく書けないけれど、好きな文章だなあと思う。でも、地震とかパンデミック、気候変動、絶滅寸前の東京とか、こういうネタを背景にして書かなくてもよろしいのにねと思った次第。こういうもの、私たちの日常に溢れてるわけで、わざわざ詩人や小説家に語ってもらうまでの必要性はありません。2021/02/02
宇宙猫
14
挫折。パンデミック後の光景とあったけど、最初の一話だけだったみたい。思ってたのと違うなと二話で終了。2021/01/03
GO-FEET
8
書き下ろしの表題作や〈実朝〉絡みも捨てがたいが、「古代海岸」が小池さんぽくて個人的には一番好み。カバーの装画、水野里奈さんの作品「From now on」が素晴らしい!(https://mizuma-art.co.jp/artists/mizuno-rina/) 緒方修一の装丁と相まって、日本ブックデザイン賞2020を進呈したい気分。2020/11/22