感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
月音
6
他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆふぐれの水──。読み手を幽明の境へと招くこの歌の主に、かつて「幻視の女王」という桂冠を捧げたのは、誰あろう本書の著者である。創造の世界で響きあう点で、著者ほど葛原作品を語るに相応しい人物はいまい。例えば、桜の詠に『源氏物語』中の用例をあげ、色とりどりの桜の景を現出、幻の鉱脈を中空に描き、花の奥に銹び煙る銀を見る。めくるめくイメージの二重奏は、新たな幻想世界を織りなす。玲瓏たる珠の響き、奇(くす)しき華の彩に、陶然として時を忘れた。⇒続2025/03/08