感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
117
「アーラーイェー ぼくの愛しい人よ 美しいコンボの娘」。現代チベット文学の短篇集。街中で働く若者、牧羊を生業にする少年、チベットを離れた女性など色々な生き方が描かれる。どの話からも暮らしに根付いた宗教観、価値観が仄かに感じられ、近代化と古来的な風味が重なった独自の味わいのある物語を面白く読めた。自然と人生観の結びつき、中でも"風"が印象的。風に吹かれたお経、暴風で再会、心の中で吹く風。プンナムが自転車で風と共に駆ける姿は精霊のようだ。自然には厳しさが伴うが、それでも彼らの純粋な陽気さと健気さが心に残った。2022/05/07
nobi
51
これはさっさと読めてしまう。起きた思った話したをそのまま写し取ったよう。男女の仲の変遷も交わされる軽口も陰影に乏しい感じすらしてしまう。日本なら源氏物語など多くの文学の蓄積が齎す厚みがいかに大きいことなのか。そんな中チベットの自然と大切な動物の描写は身に染みる。日本の新幹線で彼らが見るビジネスマンがそうした世界から如何に隔たってしまっていることか。広大な夏の空、闇の静けさ、読経の声、心の通い合う羊など、敬愛と親しみに満ちている。そんな心温まる風景が一瞬で覆される驚きも。自然も動物も人間に気遣ったりしない。2025/04/01
hiroizm
43
農業と信仰の素朴な社会から現代化へ、急激に変容する社会に翻弄されつつも真摯に生きるチベットの人々を描いた短編集。表題作「路上の陽光」と「眠れる川」の連作二篇は、1950年代に制作された日本の青春映画のような雰囲気で、このところひねくれた屈折気味の現代文学を読んでばかりの身には直球勝負感が逆に新鮮。また全体的に自然描写が美しく味わい深い。初恋同士の男女が時を経て再会する「四十男の二十歳の恋」もなかなかオツで面白かった。2022/07/22
ケイティ
37
初めてのチベット文学。連作含む短編集ですが、川の流れや強烈な陽射し、乾いた土地などチベットの空気感がどの作品にも溢れていて、壮大な長編を読んだかのような力強さがありました。作品もどれ一つ埋もれずそれぞれ際立っていて、登場人物たちも知っている人たちのように生き生きと描かれています。全体を通してラシャムジャさんの誠実さ、情熱が押し寄せてくるようで、いい作品に出合えたなぁと、純粋に楽しく没頭できる読書でした。星さんの訳も作品と一体感があり、とても良かったです。2024/03/23
ねむ
30
チベットの作家による短篇集。訳者あとがきによるとチベット語の現代文学が本格的に始まったは1980年前後とのことで、いま50代ぐらいの作家が中心的存在とのこと。この本の作者ラシャムジャは77年生まれ。どこか切なく、厳しく、苦く、でも透明感のある作風は高地の空気を思わせる。純粋無垢なばかりではない、雑踏のような不安な圧迫感や、変わりゆく社会と個人の軋轢みたいなものが描き出されていると思った。最初の二作が連作なので連作短篇集かと思ったが、連作はこの二作のみで、実はあと一作加わって三部作になる予定だそう。2023/03/16