目次
林檎貫通式(ミンチン戦争;獅子座のOを理想にかかげ;クリスマスナイトレース;闇シャンプー;しゃっくりを止めない方法 ほか)
宇宙服とポシェット(新しい生き物;ウルトラの胸;二台のピアノ;ジャイ子;羊の名前 ほか)
著者等紹介
飯田有子[イイダアリコ]
1968年生まれ。大学時代に作歌を始める。まひる野、早稲田短歌会、かばんなどに所属、現在無所属。2001年『林檎貫通式』(BookPark)刊(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
241
現代歌集としてタイトルの『林檎貫通式』はいかにも、という風格を持つ。用いられている言葉はいずれも平易だが、歌はそれを裏切る。例えば「ムーミンパパという名の馬に賭けといたレース忘れたままで週末」。また、篇中には所々に偽悪的で、ことさらに卑俗な表現をあえてするといった傾向もみられる。「ひまわりのはっぱの下でたちしょんべんをしてみた真夏」。さらにもう一つの特質としては、前衛のあり方が多分に現代俳句のそれに近接しているようにおもわれることが挙げられる。2024/07/28
松本直哉
17
「たすけて枝毛姉さんたすけて西川毛布のタグたすけて夜中になで回す顔」これは提喩(synecdoche)、すなわち部分や付属物によって本体を指し示す比喩の歌ではなかろうか。枝毛も毛布のタグも顔も、姉さんの一部あるいは付属するものなのだとすれば、この歌は「たすけて姉さん」の一言に要約することもできる。今は夜中で、隣に髪をほどいた枝毛の姉さんが毛布をかぶって眠っている一方で、自分は目覚めていて、何かに苦しんでいる。姉さんに助けて欲しくて、顔をなで回して起こそうとしている2025/05/16
ちぇけら
16
林檎型時限爆弾 会うたびに身体を貸し出すばかりの五月。果物の蜜を吸うように、あなたはわたしに唇をたてた。さっきまで英仏辞書をひらいていた指先に、わたしはあれよあれよとひらかれて、ゆく。はつ夏、花火のようなさびしさがひらいて散った。その火花はどこへゆくのだろう。涙のように体液がこぼれる。女だから、と声にしたら喉の奥がよじれるほど痛んだ。性交のあとはなにもかもが脆くて柔い。戯れに爪で擦ったところから、発光した血液があふれだす、ああ、夏がはじまるんだわ、大人になる予兆はむず痒くて、まるで脱皮をむかえた朝のよう。2021/05/25
全縁
9
歌会で薦められたので読んだ。昔のおもちゃ箱を開けたときみたいな、埃が光の中をきらきら舞って、雑然としたものどもが見え隠れしている感じ。一貫した解釈を拒絶しているような雰囲気がある。フェミニズム的な読みはしやすいけど、それが本質なのかはわからない。破調、倒置、たまに交じる平易でうすい歌、幼児性の演出、出てくるモチーフの穂村弘っぽさなどが気になった。あと装丁が好き。2022/12/31
きゅー
8
正直なところ、ほとんどの短歌に理解が及ばなかった。どういう意味なのかと歌人の名前でネットを検索していると出てくるのは「枝毛姉さん」という言葉ばかり。「たすけて枝毛姉さんたすけて西川毛布のタグたすけて夜中になで回す顔」の枝毛姉さん。この歌を端緒に飯田有子の短歌の持つ、女性だからと言いくるめられることのない幼児性や獣性に気がつかされた。それでも謎ばかりだけど。2022/02/25