著者等紹介
ハントケ,ペーター[ハントケ,ペーター][Handke,Peter]
1942年、オーストリア・ケルンテン州生まれ。オーストリアを代表する作家・劇作家・映画脚本家。大学在学中に発表した小説『雀蜂』と戯曲『観客罵倒』で衝撃的な登場をとげる
鈴木仁子[スズキヒトコ]
1956年生まれ。椙山女学園大学助教授。翻訳家。翻訳書にゼーバルト『アウステルリッツ』(白水社・レッシング翻訳賞受賞)ほか(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
スミス市松
19
まばゆい光の射すひろびろとした広場で、さまざまな人々がさまざまなことをしながら、矢継ぎ早に現れては消えていく。思えば、私たちはつねに「私たちがたがいをなにも知らなかった時」を生きている。名前も知らない彼らと言葉を交わすことはなく、ただ私の目の前を通り過ぎていく。でも間違いなくそこには――もしかしたら私はこの無言劇を読みながら、漠然と自分がこれまで出会ってきた人々のことを考えていたのかもしれない。いずれにせよ、ここに書かれているのはまだ物語が始まる前の話で、私たちがたがいをなにも知らなかった時のことである。2016/06/04
hiroizm
13
昨年ノーベル文学賞を受賞した著者の、わずか61ページ、全てト書きセリフなしの戯曲。読む時間は大したことないが、実際の舞台にするには大変そう。広場を舞台にした一幕劇ながら、現代的な人物から道化師、他の物語のキャラなど登場人物は多いし、ト書きもグレーかつ曖昧な表現も少なくない。でも演出家の気分になって、こんなかんじかなあと場面を想像しながら読むのは意外と楽しかった。何かの引用めいた象徴的な場面がいろいろあって不思議ながら興味深い。演出家や俳優さんの裁量に任せた部分も多いので、やりがいある戯曲かも。2020/05/06
きゅー
7
広場を舞台とした無言劇。どこともしれぬ広場を有象無象の人々が、様々な格好で、様々な事をしながら通り過ぎる。人々の格好と挙動が淡々と描写される様子をイメージし、この世に存在する無数の広場のなかをたゆたいながら歴史と文化に思いを馳せる。登場人物はト書きの「わたし」を見つめ、ついには観客が舞台へと躍り出る。世界を象徴するかのような広場に観客は二度ほどはじき出されるが、最後にその中へ加わる。言葉を道具として使用し、解釈と意味、意義の交じり合うひどく内省的な地平へと漕ぎ出そうとするハントケの挑戦を感じ取る一冊。2014/01/15
Э0!P!
4
広場で起きている無数の小さな出来事の持つ物語性から、人類の積み上げてきた歴史の豊潤さが思い起こされる。舞台に対する神の如き観客の視点は、歴史を俯瞰する現代人の視点とパラレルだ。一見無関係の無数の粒子が作り出す大いなる混沌の流れの中で、無数の生まれそうな物語の契機が見過ごされていくが、流れに加わること自体がまず大いなる喜びだ。たとえ結果としてその流れの中で涙することになろうとも。2025/01/25
catquittyquitty
4
戯曲というより語り手の「目」を通して語られる世界のありさまの舞台的描写とも言えそうな作品。天候、現れないはずの人物の内面、伝説的キャラクターなど制御不可能・上演不可能な要素や、視線を感じないキャラクターの存在により、演じるとは、戯曲・演劇とは何ぞや? といったことが問われているように思えるが、筆致はあくまでユーモラスで読後感は軽やかだ。整えられた歴史やストーリーが作られる前にどうしたって存在してしまう「広場」と語り手=聞き手の「わたし」がいる限り、演じられずとも逆説的に演劇的に感じられる不思議な読書体験。2018/08/16
-
- 和書
- 雁 新潮文庫 (改版)